堀井和子さんの「いいもの、好きなもの」
写真・文:堀井和子
ISABEL MARANT のロゴが印象的なイエローハウス。
表参道を歩いていて目に飛び込んできた外観の黄色は、街に不思議な面白さをプラスしているようで、ちょっとドキドキしました。
店舗デザインは、アーティストの曽根 裕さん。
真冬の、雪がちらつく日にも、このあたりを歩きたくなります。
近くの別のお店の正面に使われていたシルバーのメタル素材は、以前空港で見た飛行機の機体に似た、面を繋ぎ合わせたデザインで、ぐっと引き寄せられました。
両サイドはガラス面ですが、メタルの素材をこんなふうに合わせるなんて、すごくカッコいい。
1980年代のイギリスのミュージシャンのインタヴューを You Tube で観ていたら、背景の棚に懐かしいぬいぐるみを見つけました。
姪たちがまだ小さい頃に贈った、耳の内側が黄色いギンガムチェックで、全体が優しいタオル地のぬいぐるみのゾウです。
姪たちは33歳、31歳になりましたが、このゾウ君は、妹が幾度も洗ってずっと大事にしてきて、今、こんな様子に。
大事にされたぬいぐるみって、健やかな優しい表情をしているんですね。
背景に写っているのが、実家のダイニングの楠の床。
来年実家を取り壊して、新しい家を建てるので、この楠の床を見ることができるのもあと少し。
楠の材は耐久性が高く、腐りにくいそうですが、フローリングと同じ楠で作ったテーブルを譲り受けた時、水拭きをしていたら樟脳の香りが立って、ハッとしたのを覚えています。
実家の床が大好きで、今のマンションに引っ越す時、床を楠のフローリングに貼り替えたいと考えましたが、床暖房の部分の工事も必要ということで、諦めました。
楠の床を見つめていると、いろいろな時の記憶がふっとやってきて、じわっと胸が熱くなってくるような。
2週間前、気温37℃という残暑の厳しい土曜日、神宮前の、うつわ楓さんに伺いました。
お店に一歩踏み入れると、涼やかなガラス器や、濃いブルー、グレー、墨色の陶器などが取り揃えてあって、暑さを忘れさせるディスプレイに心が動き始めました。
写真は、松岡ようじさん作のガラスの透鉢「紗」。
直径17.5cm、高さ6.5cmで、底に近い部分が何とも言えないライムがかった琥珀色で、瑞々しいガラスの濃度を感じます。
上半分のラインがきりっと目に映り、何を盛り付けても素敵そうです。
Profile
堀井和子 Kazuko Horii
東京生まれ。料理スタイリスト・粉料理研究家として、レシピ本や自宅のインテリアや雑貨などをテーマにした書籍や旅のエッセイなどを多数出版。2010年から「1丁目ほりい事務所」名義でものづくりに取り組み、CLASKA Gallery & Shop "DO" と共同で企画展の開催やオリジナル商品のデザイン制作も行う。
CLASKA ONLINE SHOP でのこれまでの連載
> 堀井和子さんの「いいもの」のファイル (*CLASKA発のWEBマガジン「OIL MAGAZINE」リンクします)
> 堀井和子さんの「いいもの、みつけました!」
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