堀井和子さんの「いいもの、好きなもの」

第22回:シルバーの紙箱/歩道脇の植栽/ルドベキア・ヘンリーアイラーズ

写真・文:堀井和子


実家の建て替えのため荷物整理をしていた妹が、昔、預けたまま、押入れで眠っていたポジスライドの箱の収納ケースを見つけてくれました。

単行本や雑誌に使用したポジは別にファイルしてあるので、選ばなかったその他のポジが、MOUNTED TRANSPARENCIES と上面にプリントされた、シルバーの紙箱に収められています。

箱には、ひと箱ひと箱、マンハッタンやヴァーモント、サンタフェ、マルティニークなどの内容を記したラベルが貼ってあります。

当時乗っていた車や、マルティニーク島のホテルの昼食でアクラを揚げている様子、ヴァーモントの脚の短かめのキツネ ── すっかり忘れていた瞬間にタイムスリップできるポジの山が今手元に。

紙箱自体もすごく美しい。
コンパクトなサイズ、上下が分かれていない一体型で開閉し易い構造、ベースの白い箱にマットなシルバーの薄い紙を貼ってあり、上面の文字のデザインまで雰囲気があって、好きだなぁと見入ってしまいました。

“あぁ、ラベルは上ではなく、底に貼っておけばよかった” とたいそう残念に思っています。

1丁目ほりい事務所でも様々な紙箱を製作しました。

こういう紙箱は、作ろうと考えてもなかなか叶わない、シンプルに見えて贅沢なタイプです。

外苑前の STEINWAY 前の歩道脇、植えてから数年たって、植物が生き生きと自然な様子。

様々な夏の緑のコンポジションが素敵です。

最近、東京のあちこちのエリアで、植栽のデザインに心を動かされることが多くなりました。

表参道の生花店で前の週に、ふと見かけて、すごく気になっていた繊細な黄色のキク化の花、再び見つけたので買って帰りました。

ファッションのアイテムでは、ショーウィンドーで一目惚れというケースがありますが、植物や花もお店に並んでいると、昔スタイリストをしていた頃のように、短かい瞬間に心が動く対象を選んでいるのに気づきます。

一度聞いただけでは覚えられないこの花の名前が、ルドベキア・ヘンリーアイラーズ。

初夏から晩秋にかけて花を咲かせる、アメリカの野生種から発見された品種だそうです。

クルクル巻いた極く細い筒状の花弁、咲き始めの青みの感じられるレモンイエローが何とも言えず、花火を思わせるような明るい線の重なりに魅かれました。

濃い紫色の点々のような蕾が印象的なヴェルノニアを1本だけ合わせて、カイ・フランクの紫色のガラスベースに。

テーブルクロスは鈴木マサルさんのデザインのもの。


Profile
堀井和子 Kazuko Horii
東京生まれ。料理スタイリスト・粉料理研究家として、レシピ本や自宅のインテリアや雑貨などをテーマにした書籍や旅のエッセイなどを多数出版。2010年から「1丁目ほりい事務所」名義でものづくりに取り組み、CLASKA Gallery & Shop "DO" と共同で企画展の開催やオリジナル商品のデザイン制作も行う。

CLASKA ONLINE SHOP でのこれまでの連載
> 堀井和子さんの「いいもの」のファイル (*CLASKA発のWEBマガジン「OIL MAGAZINE」リンクします)
> 堀井和子さんの「いいもの、みつけました!」


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