堀井和子さんの「いいもの、好きなもの」
写真・文:堀井和子
6月の平日、雨の後に国立競技場の北西側、いつも通らない奥のエリアまで足を延ばしてみました。
人影もまばらで、ひっそり静かな中、雨に濡れた紫陽花の色や帯山木のよい香りも確かめられ、この季節の国立競技場の植栽は、建築当初より自然で素敵に進化していると、嬉しくなりました。
その一角のコンクリートの建物、幾分繊細な梯子のシルバーとシンプルな壁面のグレーが、6月の緑の中で美しく感じられました。
冷たいとか不愛想な印象ではなく、その季節の光や風を捉えて生き生きとした様子を見せてくれるコンクリートの造形に、時々ハッとして、おやっと驚いて、心が動き始めます。
国立競技場のすぐ近くに建っている Chateau Ameba のビルは、設計が建築家の竹山聖、スタジオや番組制作拠点に使用されているのだそう。
写真は玄関ピロティの傾斜角度が目を引く壁面。
外苑西通りと立体交差する橋を渡って、このビル脇の階段を降りると歩道に出られるので、このコンクリートの造形に、ついつい見入ってしまいます。
建物の内側から、この長細いスリット状の開口部を見てみたいなぁと思いながら。
丸亀市猪熊弦一郎美術館は、谷口吉生による建築で、この写真はゲートプラザの上部。
猪熊さんの壁面画と、自然光が入る高い位置の開口部、コンクリート面の構成がカッコいい。
その日、その時間の天候によって、あの正方形部分の明るさや色が変化するわけで、ずっと通って定点撮影したくなります。
2007年にパリ、ナンジェセール・エ・コリのコルビュジエのアパートメントを訪ねました。
アトリエの横長ドアやガラスブロックの斜めの窓も印象的でしたが、最近、気になって何度か見直しているのが、写真の螺旋状階段です。
上の階の白いタイル面とグレーの縁の部分、階下のベージュ色の正方形タイル ── 何気なさそうに構成された様々なディテールが、長時間見て過ごして心地よい。
アパートメントでこんなデザインを感じることができるのは、すごいと思うのです。
最近見つけた、ソフトクリームの版画ポストカード。
手漉きの生成り色の紙に、素朴なタッチのアイスクリームとコーン、その上に gracias というスペイン語の文字が入っています。
バニラの白いアイスクリームときつね色のコーンが美味しそうで、明るいブルーの文字の色がスカッと夏らしい。 おっとりヴァカンス気分に浸れるカードかなぁ。
右側は、昔買った Cheese のモノクローム写真のポストカード(©1979 SHARON KAPNICK)。
このカードの小さくて不思議なプロポーションが、ユニークで魅力的です。
Profile
堀井和子 Kazuko Horii
東京生まれ。料理スタイリスト・粉料理研究家として、レシピ本や自宅のインテリアや雑貨などをテーマにした書籍や旅のエッセイなどを多数出版。2010年から「1丁目ほりい事務所」名義でものづくりに取り組み、CLASKA Gallery & Shop "DO" と共同で企画展の開催やオリジナル商品のデザイン制作も行う。
CLASKA ONLINE SHOP でのこれまでの連載
> 堀井和子さんの「いいもの」のファイル (*CLASKA発のWEBマガジン「OIL MAGAZINE」リンクします)
> 堀井和子さんの「いいもの、みつけました!」
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