堀井和子さんの「いいもの、好きなもの」
写真・文:堀井和子
一昨年6月9日に撮影した、ヤマモモの木。
昔住んでいた世田谷の宮坂駅近くにヤマモモの木があって、この季節にはたくさん実をつけ、熟すとグレーのコンクリートの歩道に落ちて、点々とドット模様を見せてくれました。
ヤマモモの実の色は、フランボワーズピンク系のシックな赤で、控えめなのに色っぽく、お洒落な印象で、記憶にしっかり焼きついています。
夕食の時、グラスに1杯、軽めの赤ワインかビールを飲みます。
クローゼットのガラス器を整理していて、以前、エルダーフラワーのドリンク用にデザインしたグラスを見つけました。
上部がふくらんだ、おっとりしたフォルムのグラスで、下の方に手描き文字を白でプリントしてあります。
このグラスでビールを飲んだら、いつものスーッとしたグラスで飲むより、ずっと美味しく感じられ、びっくりしました。
以来、ビールを合わせたくなる日が、増えたような。
5月末の土曜日、雑司ヶ谷の ehon house を訪ねました。
正面ウィンドーの本棚4段に、それぞれ5〜7冊の絵本がディスプレイされていたのですが、ウィンドー枠と本棚は濃いブルー、並べられた本は、表紙が水色、ミントがかった濃い水色、青と水色系で揃えてあって、とても魅力的でした。
しばらくディスプレイを見つめて、気になった絵本を店内で探すことに。
上から2段目、左から2番目の ”Shh!” は CHRIS HAUGHTON 作。
中の本棚でこの本は見つけられませんでしたが、他の HAUGHTON の絵本はチェックできました。
“DON’T WORRY LITTLE CRAB” (Walker Books)は、ユニークな手描き文字と大胆な構図もさることながら、その色使いに、かなりハッとしてしまいました。
グラフィックデザイン的な表現のカニが、ぐんぐん迫ってくるのです。
これから夏という季節、突き抜けるような、湿度をふっきるような色使いのシーンが、ぴったりに感じられたのかもしれません。
“Shh!” も、棚の1冊を見せていただきましたが、この1冊を買うことに。
Eric Carle の “Little Cloud” は、白い絵具で描いたのではなく、白く塗った紙をハサミで切り取った雲の形に、ワクワクします。
小さな雲が他の雲と合流し、ひとつの大きな雲になって、雨がザーッと降ってくる見開きページに、胸を打たれました。
家々や木々のコラージュの上に描かれた雨の線が、すごく嬉しそうで明るくて。
絵本て不思議です。
いくつになっても、素直に見入って心が動きます。
Profile
堀井和子 Kazuko Horii
東京生まれ。料理スタイリスト・粉料理研究家として、レシピ本や自宅のインテリアや雑貨などをテーマにした書籍や旅のエッセイなどを多数出版。2010年から「1丁目ほりい事務所」名義でものづくりに取り組み、CLASKA Gallery & Shop "DO" と共同で企画展の開催やオリジナル商品のデザイン制作も行う。
CLASKA ONLINE SHOP でのこれまでの連載
> 堀井和子さんの「いいもの」のファイル (*CLASKA発のWEBマガジン「OIL MAGAZINE」リンクします)
> 堀井和子さんの「いいもの、みつけました!」
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