東京903会 安藤夏樹さん Interview
毎年恒例となった年末年始の企画展 「ゆく熊くる熊」 が今年もスタートしました。
北海道の八雲で木彫り熊が発祥して 100 年になる今年の展示テーマは 「抽象」。
過去と今を繋ぎ、 そして明るい未来を感じさせる楽しい展示になっています。
「東京903会」 代表の安藤夏樹さんに、 今年の活動を振り返っていただきつつ今回の展示についてお話を伺いました。
写真:柳川暁子(CLASKA)/文・編集:落合真林子(CLASKA)
Profile
安藤夏樹 Natsuki Ando
編集者。 「東京903会」 代表。 日経ホーム出版社、 日経BPを経て、 2016年 「プレコグ・スタヂオ」 を設立。 時計を中心とした記事を編集・執筆しながら、 『熊彫図鑑』 をはじめとした書籍の企画・制作・発行を行っている。 東京903会としては、 2019年より 「GALLERY CLASKA」 で木彫り熊の企画展を開催。 今回が6度目の開催となる。
Instagram:@tokyo903/@a.natsuking/@precog_watch
Interview:「つくる人 Vol.12 あるものから無いものをつくる」
──2024年は北海道・八雲で木彫り熊が発祥してから100年になるアニバーサリーイヤーでした。 今年の活動を振り返ってみていかがですか?
安藤夏樹さん (以下、 敬称略):
色々なイベントがありましたが、 代表的なところでいうと3月に 「伊勢丹 新宿店」 で行った 「熊は100歳100祭」、 9月に北海道の八雲で行った 100 周年記念のトークショー、 それから12月に 「ビームス ジャパン 京都」 で行ったポップアップストアでしょうか。 伊勢丹 新宿店とビームス ジャパン 京都については会場に展示する木彫り熊を 「八雲町木彫り熊史料館」 からお借りすることができて、 とても充実した内容になりました。
──もともと木彫り熊に興味がある方だけではなく、 偶然その場を通りかかったから観た、 という方も多かったのではないでしょうか。
安藤:
そうですね。 木彫り熊にファーストタッチだった方もそれなりに多かったのではないかと思いますが、 それが狙いだったところもあります。 ここ数年毎年行っている 「GALLERY CLASKA」 さんでの展示は常連のお客さまが増えてきているという実感があって、 ありがたいと思いつつも新規のファンも増えてほしいなという思いがありましたから……。 2024年は 「木彫り熊を知らない人達にどれだけ観てもらえるか」 ということを意識していたので、 そういう意味では自分でやれる範囲内でやるだけのことはやれたかな、 という感じですね。
展示会場の様子 (すべて非売品)。
──今年の 「ゆく熊くる熊」 は 「抽象熊」 がテーマです。 八雲の熊彫り作家の中でも抽象熊の代表的なつくり手である柴崎重行さんと根本勲さんの作品、 そして現代作家としては高野夕輝さんの作品がフィーチャーされていますが、 抽象熊というテーマに行きついた背景はどのようなものだったのでしょうか。
安藤:
今年は "100年前から現在に至る熊彫の全体の流れを知ってもらう" ということをテーマに各所で展示を行ってきましたが、 「ゆく熊くる熊」 は 2024 年最後にして 2025 年最初の展示になるわけですから、 これからの未来に繋がっていくようなテーマでやりたいなという思いがありました。 熊彫の歴史としても 100 周年から 101 周年にまたがる特別なタイミングなので、 今回の展示では何をやるべきか? と考えを巡らせるところから展示の構想がスタートしました。
──なるほど。
安藤:
八雲の木彫り熊の特徴を改めて考えた時、 「抽象化」 と 「擬人化」 という分野が他の産地よりも一歩先んじています。 来年 2025 年は抽象熊の代表的な作家・柴崎重行さんの生誕120周年の年ということもあり、 今回は 「抽象」 にテーマを絞ってみようと考えたんです。
──抽象熊には、 多くの人が抱いてきたであろう木彫り熊のイメージを打ち破るようなモダンさがありますよね。
安藤:
そうそう。 現代のライフスタイルを踏まえて見た時も、 モダンなインテリアとして空間に馴染むような芸術性を感じますよね。 飾りたくなる木彫り熊は他にも色々あると思うんですけど、 その中心に抽象熊がいる気がします。
──抽象熊に加えて擬人熊についても、 年明けからは現代作家・高旗将雄さんの作品が展示販売されます。
安藤:
現在の北海道木彫り熊人気を考える上で、 抽象の流れを汲む高野さん、 擬人の流れを汲む高旗さんが出てきたことはすごく大きな出来事だと思っています。 八雲から続くスタイルを汲みながらも過去には無かった要素を入れた作品を作っている二人の作品を、 未来へつながる存在として改めて紹介したい思いがありました。 今回は展示テーマを抽象に絞ることにしたので、 その分野を代表する現代作家である高野さんをフィーチャーすることで、 過去から今に繋がってきた抽象熊というひとつのスタイルを深く知ることができる内容にしよう、 と。 そして、高旗さんの作品を展示販売することで、 擬人化熊の最前線にも触れていただけたらと考えています。 これまでの展示は、 言ってみれば 「木彫り熊ってこんなにいろんな種類があって、 楽しめるものですよ」 という方向性でしたが、 今回はじめて編集者としての視点を入れた感じですね。
展示会場の様子(すべて非売品)。
──展示会場に入ってまず目に入ってくるのが、 会場中央に展示された高野さんの作品群です。 高野さん自身が手元に保管していた貴重なプロトタイプも多くあるそうですが、 改めて、 安藤さんが考える作家としての高野さんの魅力はどんなところにあるとお考えですか?
安藤:
高野さんの他にも抽象熊を彫っている現代作家は存在しますが、 「自分なりの抽象化」 というものを追求しているのは僕が知る中では高野さんだけだと思っています。 高旗さんもそうですが "発展性" を感じられるところが素晴らしいですね。 柴崎さんや根本さんなど八雲の偉大な先人の影響はもちろん受けているけれど、 その中に留まっていない印象があります。 今回は高野作品のコレクターの方々からも多くの作品をお借りして展示しています。 なかなか見られないものが多いので、 ぜひ沢山の方に見ていただきたいです。
展示会場の様子。(すべて個人蔵・非売品)
──安藤さんのお話を伺っていると、 私たちはこの先も続いていくであろう木彫り熊の歴史の真っただ中にいるんだなぁという気がして、 なんだか感慨深いものがあります。 今 "現代作家" として紹介されている方たちの作品も、 たとえば 100 年後には今の柴崎さんたちと同じような扱いになっているのかもしれません。 今年も年をまたいでの展示になりますが、 来年はどのような活動を予定していますか?
安藤:
これは来年というよりもこの先長い目でみた時の一つの目標なのですが、 木彫り熊の展示を美術館でやってみたいなという思いがあります。 もともとは土産物としてつくられたものなので異論はあるかもしれませんが、 僕自身は柴崎さんの熊を芸術品だと思っています。 柴崎さんのみならずさまざな作家の作品、 八雲だけに限定せず旭川や札幌など、 他の地域の木彫り熊もすべて集めて並べるような展覧会ができたらいいなと。 高野さんや高旗さんのような優れた現代作家がいることで、 木彫り熊は単なるノスタルジーではなく現在進行形で "生きている" 存在になっていると思っています。 これからも粛々と、 木彫り熊の魅力を多くの人たちに伝える活動をしていきたいですね。
作家の高旗将雄さんが安藤さんにプレゼントしてくださったというオリジナルのMA-1。
Information
企画展 「ゆく熊くる熊2024-2025 by 東京903会」
会期:2024年12月20日(金)〜29日(日)/ 2025年1月8日(水)〜13日(月・祝)
営業時間:水曜〜日曜 12:00〜17:00 定休日:月・火曜休廊
※年末年始休廊期間 2024年12月30日(月)〜2025年1月7日(火)
会場:GALLERY CLASKA (住所:東京都港区南青山2-24-15 青山タワービル9階)
●東京メトロ銀座線 「外苑前」 駅 b1出口より徒歩1分
企画:precog gallery