コレクターの心を熱くする書籍を出版する「プレコグ・スタヂオ」から初めて発売された小説、『たしかに熊だが』。 著書は、本書が小説第一作目となる いなもあきこ氏。
本書の舞台は、大正時代末期から昭和初期にかけての八雲町。
木彫り熊はどのように生まれ、いかにして独自のものへと成長を遂げたのか。 “殿様”と農民たちとの笑いあり涙ありの楽しき奮闘の日々を描いた、世界初となる木彫り熊の時代小説です。
と同時に、大正・昭和初期という激動の時代に地方で暮らした若きアーティストたちが、農業や家、地域とどのようにかかわり、人として何を考え、どう芸術と向き合ったのかを描き出す、友情と葛藤に満ちた“胸熱”青春小説でもあります。
あらすじ
大正末期、尾張徳川家第19代当主・徳川義親は、妻を伴って訪れたヨーロッパ旅行で、一体の“木彫り熊”に出合った。
聞けば、スイスでは雪深い冬、農民たちがこうした土産物を「ペザントアート」として作り、生活の糧にしているという。
義親はこのペザントアートを日本に持ち帰り、明治初期に旧尾張藩が開拓した北海道・八雲町で同じように「農民美術」として土産物産業を芽吹かせようと思いついた。
これを受け、のどかな農村で暮らす当の八雲の人たちは、上へ下への大騒ぎだ。 “殿”の奇想天外なアイデアを形にし、実現しなくてはいけないのだから。
実行役は、刀を鍬に持ちかえた旧尾張藩の忠臣、そして農村にまで吹く新しい時代の風を感じ、何かやりたくてうずうずしている若き農民たち。 その中からやがて、熱きハートを持った芸術家二人が生まれる。
柴崎重行と、根本勲。彼らは農業と芸術の両立を模索し、「自分が本当に作りたいもの」を探して北海道をめぐる旅に出かけた──。
たしかに熊だが、
これは僕が土産物屋で“いやげもの”として
買ったものとは一線を画す、
“こだわりの熊”の初歴史小説である。
──とは、イラストレーターのみうらじゅん氏。
挿画は、2023年にGALLERY CLASKAでも個展を開催していただいた、坂巻弓華さんが担当。 なんと、背表紙に熊が・・・。
小説を読みながら、熊の世界に、どっぷりお浸かりください。
写真:野口祐一