堀井和子さんの「いいもの、好きなもの」
写真・文:堀井和子
画像は2008年10月、京都のギャラリー måne で“カレンダー展”をした時の展示風景です。
1980年頃から10年以上、毎年、自分の家用カレンダーを手作りしていました。
1984年に主人のアメリカ転勤が決まった時、実家の父が、“着物を”と言ってくれたのですが、着物の代わりに一眼レフのフィルムカメラを買ってもらいました。
カメラの機能については詳しくなく、取扱説明書だけが頼りで、N.J. の現像所でエクタクローム 100のフィルムを買っては、朝・昼・夕の光の中で、試行錯誤の撮影をくり返していたことを思い出します。
N.J. のアパートメントの部屋は、9階で北向きだったので、幾分光がブルーがかって、自然光で撮ると何とも言えない雰囲気の色に写って、その頃撮った写真がとても好きでした。
カレンダーの数字部分は、鉛筆で枠を描き、数字のゴム印はインクを付けてから一度捨て押しし、二度目のグレーの色で揃えるようにしていました。
その後で鉛筆の線を消しゴムで消すというアナログな作りかたでしたが、今見ると、印刷したら出せない、手仕事らしいニュアンスが写真と合っているように感じます。
いつも12月くらいに、その年撮った中から気に入ったネガを選び、現像所で紙焼きしてもらっていました。
マンハッタンの街の建物、ショーウィンドウの文字、朝食のパン、洋梨の赤ワインコンポート、マルシェの野菜など20枚以上用意して、1月はこれ、2月はこれと合わせていく時間の楽しかったこと、忘れられません。
今現在は、デジタルカメラでの作業ですが、自分で撮った写真について、個人的には、父が買ってくれた Nikon のカメラで撮ったものが、特別だった気がしています。
1990年頃、外苑前駅近くの青山通り沿いにギャラリーがあって、歩道に展覧会の看板を見つけて立ち寄り、一目で買うことを決めてしまった夏目有彦さんの漆の丸盆。
漆を塗る前の木地はかなり厚みがあって、飄々とした円い形はおっとりとしたゆがみが何ともいえず、側面のカーブも自然で、絶妙なフォルムに感じられます。
その木地に塗られた黒漆が奥行きのある色合いで、息を呑むくらい堂々としています。
当時も高価だったはずですが、ふと立ち寄って、これはと感じるものに出合い、買うことを決めて、今、ここにあるのが嬉しいお盆です。
ティーマのカップ&ソーサーとコノシャンテのケーキ皿、コーヒーブレイクのセッテイングです。
Profile
堀井和子 Kazuko Horii
東京生まれ。料理スタイリスト・粉料理研究家として、レシピ本や自宅のインテリアや雑貨などをテーマにした書籍や旅のエッセイなどを多数出版。2010年から「1丁目ほりい事務所」名義でものづくりに取り組み、CLASKA Gallery & Shop "DO" と共同で企画展の開催やオリジナル商品のデザイン制作も行う。
CLASKA ONLINE SHOP でのこれまでの連載
> 堀井和子さんの「いいもの」のファイル (*CLASKA発のWEBマガジン「OIL MAGAZINE」リンクします)
> 堀井和子さんの「いいもの、みつけました!」