東京903会

東京903会 安藤夏樹さん Interview

「ゆく熊くる熊」 今年もはじまります。

GALLERY CLASKAの年末年始恒例企画となった 「東京903会」 による企画展も、 今回で5度目となりました。
来年2024年は、 北海道の八雲で木彫り熊が発祥して100年となるアニバーサリーイヤー。
東京903会代表の安藤夏樹さんを訪ね、 展示にまつわる様々なお話を伺いました。

写真:柳川暁子(CLASKA)/文・編集:落合真林子(CLASKA)




Profile
安藤夏樹 Natsuki Ando


編集者。 「東京903会」 代表。 日経ホーム出版社、 日経BPを経て、 2016年 「プレコグ・スタヂオ」 を設立。 時計を中心とした記事を編集・執筆しながら、 『熊彫図鑑』 をはじめとした書籍の企画・制作・発行を行っている。 東京903会としては、 2019年より 「GALLERY CLASKA」 で木彫り熊の企画展を開催。 今回が5度目の開催となる。

Instagram@tokyo903@a.natsuking@precog_watch

Interview:「つくる人 Vol.12 あるものから無いものをつくる


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──今年も12月21日より 「ゆく熊くる熊」 がスタートします。 来年2024年は、 木彫り熊が北海道の八雲で発祥して100年になる記念の年だそうですね。

安藤夏樹さん (以下、 敬称略):
そうなんです。今回の展示の一つのテーマになりますね。

──「ゆく熊くる熊」 は、 安藤さんが発行された 『熊彫図鑑』 をひとつの柱として、 主に安藤さんのコレクション展示と現代作家3名 (大住潤さん、 高野夕輝さん、 高旗将雄さん) の作品の展示販売から構成されています。 2019年に行った最初の展示以来、 回を重ねるごとに会場を訪れてくださる方の熱気が高まっているように感じますが、 いかがでしょうか。

安藤:

今おっしゃったように 「ゆく熊くる熊」 は僕が集めている木彫り熊の展示がメインで、 毎回展示しているものも多かったりするので、 見に来てくださる方の数が爆発的に増えてはいない気はします。 だた、 「木彫り熊が欲しい人」 の熱量はめちゃくちゃ上がってきている実感はありますね。

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事務所には 「ゆく熊くる熊」 の展示ではおなじみの存在となった現代作家 高野夕輝さんの作品をはじめとした、 安藤さんの木彫り熊コレクションが所狭しと並ぶ。


──GALLERY CLASKA での展示は今回で5度目になりますが、 改めて 「東京903会」 の活動について教えてください。 そもそもどのようなきっかけで活動がはじまったのでしょうか?

安藤:
僕と木彫り熊の縁は、 八雲でつくられた木彫り熊をとある古道具店で見つけたことがきっかけです。 「現地に行けば他の作品も買えるんじゃないか」 という思いから八雲に足を運んだのですが、 結局その時は木彫り熊を買うことはできませんでした。 でも、 滞在中に 「木彫り熊を彫ってきた人たち」 の話を様々な方にお伺いする機会を頂いて、 その話がとても面白かったんですね。 「八雲の熊彫」 として共通の特徴を持ちながらも、 作家ごとに確固とした個性を持っている。 その魅力をより多くの方に知ってもらいたいという思いから、 2016年に 「東京903会」 を結成しました。 結成といっても、 最初はインスタグラムをはじめたくらいでしたが……ちなみに、 903会のメンバーは僕一人です(笑)。

──その後、 北海道関連のイベントに安藤さんの木彫り熊コレクションを貸し出し・展示したり、 903会オリジナルの手ぬぐいをつくったりしていたそうですが、 2019年に発行した 『熊彫図鑑』 は903会として大きな節目となったのではないでしょうか。

安藤:
そうですね。

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『熊彫図鑑』 (写真は第二版)。 八雲で発祥した木彫り熊の歴史や代表的な作家についての情報、そして八雲の木彫り熊が約220点掲載されている。まさに木彫り熊入門書といえる一冊。


──北海道の木彫り熊といえば、 或る世代以上の人であれば誰もが一度は見聞きしたことがある北海道みやげの定番ですが、 最初に図鑑を拝見した時、 自分が知っている木彫り熊とはずいぶん姿形が異なることに驚きました。 「鮭を咥えていない木彫り熊もいるんだ!」 と。

安藤:
そういう人は多いと思います。 僕自身も北海道みやげであることは知っていたけれど、 なぜつくられるようになったのか、 どんな人たちが彫っていたのか? という歴史背景は何も知りませんでしたから。 沢山の人が知っているけど、 本当のところを知っている人はほとんどいない。 こういうものってなかなか無いぞって思った時に編集者としてすごくワクワクしたし、 これは世の中に伝えるべきだと思い、 『熊彫図鑑』 をつくることにしたんです。


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──『熊彫図鑑』 には約220点に及ぶ八雲の木彫り熊の写真が掲載されていてそれだけでもかなり興味深いのですが、 熊彫作家の親族の方々が語る作家一人ひとりの人間ドラマも、 かなり面白いですよね。 図鑑を読み込んだ上で会場に展示されている木彫り熊を見ると、 また違った感動というか感覚が味わえるのではないかと思います。

安藤:
例えば海外のギャラリーとかだと、 作家の図録を元に作品を売るケースが多いと思います。 でも 『熊彫図鑑』 は木彫り熊を売るためにつくったものではないから、 展示会場に並んでいる作品 (安藤さんの私物) が買えるわけではないんですよね。 でも、 大住潤さん、 高野夕輝さん、 高旗将雄さんという素晴らしい現代作家たちの作品は買えますから。


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「東京903会」 代表、 編集者の安藤夏樹さん。


──3人それぞれ、 作風が全く違うのが面白いですよね。 毎年争奪戦が繰り広げられて、 それぞれのファンの方々の熱量に圧倒されます。

安藤:
僕にとってはどれも 「欲しい」 と思う熊ですし個人的にも3人それぞれの作品を持っています。 この3人の作品はとにかく独自性がある。 他の誰の熊とも似ていません。 そういうところが好きなんです。

──御三方の他にも、 熊彫り作家として活動する方がここ数年で増えたそうですね。

安藤:
僕が 『熊彫図鑑』 をつくろうと思った2016年頃は、 熊を彫っている人は本当に少なかったんです。 八雲で商売として熊を彫る人はゼロでしたし、 北海道全体でも若い作家はほとんどいませんでした。 でも今は、 一旦は熊彫りから離れた人が復帰したり現代作家と呼ばれる人も増えて、 木彫り熊の生産量が増えている状況だそうです。 ですから903会としても色々な作家が選択肢としてあるのですが、 僕としては木彫り熊が現在のように盛り上がる前から自分が注目していた3人がいてくださればいいかなって。 大住さん、 高野さん、 高旗さんは、 最初に一緒に船に乗ってくれた人たちでもあるので。 3人に対しては、 こういう思いがありますね。

──高旗さんとは、 2019年に開催された最初の展示にお客さまとして来てくださったことがきっかけで縁が繋がったとか。

安藤:
そうですね。 その時既にイラストレーターとしては有名な方だったんですけど、 「実は熊を集めているんです」 と。 その後、 自分でも彫りはじめたというので見せてもらったらすごく良かったから 「うちでもやりませんか?」 とお声かけしました。 3人の中でも高野さんは僕のギャラリー (プレコグ・ギャラリー) 所属なので、 いわゆるシグニチャー的な存在ですが、 他の2人も 「903会のイベントだから」 ということで毎回チャレンジングな作品を用意してくださることをとても嬉しく思っています。

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高旗将雄さんの作品。 熊の右にあるのは 「Hotel CLASKA (2021年に老朽化のため閉館)」 をモチーフに彫ってくださった作品。(いずれも安藤さん私物)



──903会の活動が一つのきっかけになって、 ここ数年で木彫り熊を取り巻く状況が変わりつつあるんですね。

安藤:
一度熊を彫ることから離れた人が復帰したという話を聞いたりすると、多少ですが北海道の経済に貢献しているのかなって思ったりします(笑)。 小さな一歩ですけどね。 GALLERY CLASKA での展示に限らず木彫り熊が紹介される機会が増えているので、 新たに関心を持った方も増えているんじゃないでしょうか。

──今回の展示も、 たくさんの方に足を運んで頂けるといいなと思います。

安藤:
そうですね。 展示としてそこそこの情報量がありますし、 僕のコレクションをここまで多く展示する場は他には無いので、 きっと楽しんでいただけるんじゃないかと思います。

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1983年に79歳で永眠した根本勲さんは、 八雲の木彫り熊の歴史を語る上で重要な人物のうちのひとり。 抽象化された直線的な彫りが特徴。



──最後に、 今回の展示ならではの見どころについて教えてください。

安藤:
来年 (2024年) は八雲で木彫り熊が発祥してから100年という節目であると同時に、 木彫り熊作家の根本勲さん生誕120年の年でもあります。 それを受けて、 根本さんの作品をまとめて見せられるような棚がつくれたらいいなと考えています。 根本さんの作品は数が少ないので、 見られる機会があまりないんです。 いつも通り、 大住さん、 高野さん、 高旗さんの作品の展示販売もしますので、 楽しみにしていてください。

──毎回足を運んでくださっている方にとっても、 新たな楽しみや発見のある展示になりそうですね。 今年も木彫り熊と共に年を越し、 新年を迎えるのが楽しみです。

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Information
企画展 「ゆく熊くる熊 by 東京903会 2023-2024」


会期:2023年12月21日(木)〜2024年1月14日(日)
営業時間:水曜〜日曜 12:00〜17:00 定休日:月・火曜休廊
※年末年始休廊期間 2023年12月29日(金)〜2024年1月4日(木)
会場:GALLERY CLASKA (住所:東京都港区南青山2-24-15 青山タワービル9階)
●東京メトロ銀座線 「外苑前」 駅 b1出口より徒歩1分

企画:precog gallery

【ご紹介作家】
大住潤さん / 高野夕輝さん / 高旗将雄さん
※初日の作品販売はございません。
※高旗将雄さんの作品は年内の展示・販売はございません。 詳細は追って告知させていただきます。

【作品の販売について】
販売日当日に 「東京903会」 および 「GALLERY CLASKA」 のInstagramにて告知いたします。
誠に勝手ながら、 「東京903会」 の意向により販売点数や価格等に関する事前のお問い合わせにはお答え致しかねます。 また、 お取り置き等は承っておりません。 何卒ご了承ください。

【トークショーのおしらせ】
東京903会代表・安藤夏樹さん×イラストレーター・高旗将雄さんトークショー


編集者であり東京903会代表を務める安藤さんと、 イラストレーターであり木彫り熊作家としても人気の高旗さんによるトークショーを開催します! ゆく熊くる熊展ならではの、 木彫り熊にまつわるちょっとディープな (?) おふたりのお話を是非お楽しみください。

日時:1月7日(日) 14時〜 ※1時間程度を予定
参加費無料。
座席数に限りがあるため、 席が埋まっている場合は立ち見にてご観覧ください。

【高旗将雄さん × CLASKAによるオリジナルトートバッグを販売します!】
今回の展示にあわせて、 高旗さん描き下ろしの “山登りをする熊” のイラストがプリントされたトートバッグをつくりました。 カラーはグリーンとベージュの2色展開。 こちらは会場で販売いたします。

【ご来場にあたってのお願い】
・当ギャラリーはオフィスビルの中にございます。 建物内にはお待ちいただけるスペースが十分にございませんので、 出来るだけオープン時間にあわせてお越しください。
・共用部などでお待ちいただくとほかの入居者の方のご迷惑となりますのでご遠慮ください。