林田摂子 写真展「森にふれる」

─ Interview

林田摂子 写真展 「森にふれる」

 

GALLERY CLASKA としては初となる、 写真家・林田摂子さんの写真展を開催します。
島根県松江市を拠点に活動をする林田さんに、 これまでの歩みについて、 そして4冊目となる写真集 『森にふれる』 の制作背景についてお話を伺いました。


文・編集:落合真林子 (CLASKA) 



 

Profile
林田摂子 Setsuko Hayashida


東京都生まれ、 愛知県、 千葉県、 兵庫県育ち。 共立女子大学国際文化学部、 東京綜合写真専門学校卒業。 2000年より、 個展、 写真集を中心に作品を発表。 これまで出版した写真集に 『森をさがす』 (2010年)、 『島について』 (2012年)、 『岸へ』 (2018年)、 『森にふれる』 (2025年) がある。 中学1年女子と小学5年男子の母。 現在、 島根県松江市在住。


──CLASKA と林田さんの出会いは今から 15 年程前、 当時目黒にあった 「Hotel CLASKA」(2020年閉館) 内の 「CLASKA Gallery & Shop "DO"」 本店に、 『森をさがす』 という写真集を持って訪ねて来てくださったことがきっかけでした。 今回久しぶりにご縁をいただいたことを機に、 改めてこれまでの歩み等についてお伺い出来たらと思います。 早速ですが、 林田さんが意識して写真を撮りはじめたのはいつ頃でしたか?

林田摂子さん(以下、 敬称略):
写真を撮りはじめたのは短大2年生、 19歳の時でした。 当時女性写真家として HIROMIX さんが活躍されていて、 強く意識はしていなかったのですが少なからず影響を受けていたと思います。 家にあったコンパクトカメラで家族や友人、 風景などを撮っていましたが、 写真に興味が出てきたタイミングで、 父がかつて使っていたミノルタの一眼レフカメラを譲り受けることになったんです。 早速そのカメラで友人達を撮ってプリントしたのですが、 その仕上がりに衝撃を受けて。 今でもその写真のことはとてもよく覚えています。

──それまで使っていたカメラで撮った写真とは、 何かが違ったのでしょうか。

林田:
そうですね。 友人達が自然に笑っている写真だったのですが、 その場所の空気感までもが写っている印象でした。 その後大学に編入して写真部に入り学校の現像室で現像をするようになってからは、 さらに写真の面白さにはまっていきました。


林田摂子 写真展「森にふれる」

写真集 『森にふれる』 より photo:Setsuko Hayashida

 

──大学卒業後は写真専門学校の夜間部に入学したそうですが、 学生時代に学んだこと、 感じたことの中で特に印象的なことがありましたら教えてください。

林田:

学校の課題は 「人のスナップ写真」 で、 土日に新宿や渋谷の雑踏で全く知らない人達を近距離で撮るという自分にとって苦手なタイプの撮影だったのですが、 現像してみると撮ったことを覚えていないカットがあったり、 自分が見た記憶の無いものが写っていたり、 新鮮な驚きがありました。

──当時の経験は、 どのようなかたちで今に生きていると感じますか?

林田:
今の自分の写真の基礎は、 学校の課題に向き合う中で鍛えられたように感じています。 渦中に自分を放り込んで、 自分の存在を消して、 考える前に "撮る" ということ。 そこから浮かび上がった像を改めて見て "選ぶ" ということ。 写真学校の 2 年目には、 母の実家である長崎県の島原半島にあるお寺で撮影をして、 それが卒業制作になりました。 卒業後はアルバイトをしていた出版社でカメラマンとして働かせていただくことになり、 10年程お世話になりました。

──被写体はどのようなものが主だったのでしょう。

林田:
情報誌や学校関係の仕事が主だったので、 赤ちゃんから、 学生、 社会人、 会社の社長や大学教授まで、 性別年齢問わず沢山の方を撮影させていただきました。 もともと人見知りする性格だったのですが、 はじめてお会いする人にカメラを向け続ける日々を経たことで、 自分自身にもいい変化があったように思います。

林田摂子 写真展「森にふれる」

写真集 『森にふれる』 より photo:Setsuko Hayashida

 

森にふれる

──これまで発表されてきた作品群を拝見すると、 林田さんにとって 「自然」 というものが、 長く向き合ってきた大切なテーマであるように感じられます。 昨年発表された最新作 『森にふれる』 にも神社や里山など身近な森の情景を撮影した写真が収められていますが、 本作を制作するに至った経緯についてお聞かせください。

林田摂子さん(以下、 敬称略):
家の近所にある 「冬營舎」 という古本屋が主催した企画展への参加が大きなきっかけになりました。 お店が所有している 「ヤシカフレックス」 という昔の二眼レフカメラで写真を撮って、 それを展示するという趣旨の企画だったんです。


林田摂子 写真展「森にふれる」

『森にふれる』に収録された写真を撮影したカメラ「ヤシカフレックス」。 photo:Setsuko Hayashida

 

──それまで二眼レフカメラを使ったことはありましたか?

林田:
いえ、 はじめてでした。 35mmのカメラしか使ったことがなかったので 「ヤシカフレックス」 の佇まいに惹かれて、 私もその展示に参加させていただくことにしたんです。 最初は家の近くの滝に家族で遊びに行った時にそのカメラを持っていって、 撮り方もままならないまま恐る恐る、 でも新鮮な気持ちで撮影しました。 二眼レフの場合、 ファインダーには像が左右逆に映りますし、 ピントが合っているのかいないのか分かりづらかったのでカメラに任せてみたんですね。 そうしたら、 1本目のフィルムを現像に出して出来上がってきたプリントを見た時に、 父親のカメラで撮った写真をはじめて見た時と同じ感動があったんです。 目に見えているもの以外の "何か" が写っているような……その場所にあるものとカメラと私が、 どこか一致したような感覚でした。 それ以来、 その滝に行く時はいつもカメラを持って行き、 家族でのキャンプ、 近所を子ども達と散歩する時など日常生活の中で撮影をするようになりました。

──ご家族と撮影の時間を共にすることで、 何か気づきはありましたか?

林田:
普段から 「これを撮りたい、 こういう風に撮りたい」 といった具体的な気持ちを持たずに自分をなるべく無にして、 その場と時間と共に自然に一緒にいるような感覚で被写体と向き合っているのですが、 自然の中にいると安心するのと同時に少し "怖い" という感覚があります。 なぜかはわからないのですが……守られている感じと、 疎外感が同時にあるというか。 そこに無防備な小さな子ども達と一緒に身を置くことで、 安心感の方が少し増えて私自身も子どもになったような感覚でシャッターを切れる感じがしました。 リラックスしていると同時に、 五感に意識を集中しているような感覚です。


林田摂子 写真展「森にふれる」

写真集 『森にふれる』 より photo:Setsuko Hayashida

 

カメラのシャッターを切る時

──松江に居を移したことで、 写真との関係性に何か変化は生じましたか?

林田:
東京で暮らしていた時と比べて "そのままの自然" がごく身近に存在するようになりました。 最近改めて気づいたのは 「自分がありのままでいることが出来る時にシャッターを押している」 ということです。 自分が感じる時間の感覚とその場に存在するものや人、 そして空気が発する感覚を自分自身に取り込んで、 シャッターを切っているな、 と。

──やはりお子さまが生まれて家族が増えたことも大きいですか?

林田:
そうですね。 子どもが生まれたことはやはり自分にとって大きな出来事で、 妊娠中は "自分の身体の中に違う命がある" という不思議さを感じ、 出産後は自分自身も0歳に戻って子どもと一緒に大きくなっていく感覚を得るようになりました。 撮る写真についても、 "変化の速度が速い、 自然に近い動物" としての子どもと、 森やその中に存在する植物のような "変化しているけれども、 その変化が分かりずらいもの" という2つの対象物が組み合わさるようになりました。

──写真集の最後のページには、 大正から昭和にかけて活躍した詩人・大木篤夫の 「風・光・木の葉」 という詩が封筒に入った状態で収められています。 この詩を選んだ理由とそこに込めた思いについてお聞かせください。

林田:
『森にふれる』は、 松江にある行きつけの古本屋兼ギャラリー 「DOOR」 を主宰する高橋香苗さんと一緒につくったのですが、 高橋さんから 「何か自分の言葉、 もしくは詩のようなものを入れたら?」 という助言をいただきました。 昔から詩が好きだったこともあって、 何かいいものがないか探していたところ、 偶然古本屋で大木篤夫さんの古い詩集と出会いました。 この詩集の一番はじめの詩 「風・光・木の葉」 が、 私が写真を撮る時の感覚とすごく近いように感じたんですね。


林田摂子 写真展「森にふれる」

photo:Setsuko Hayashida

 

──具体的にはどういった感覚ですか?

林田:
自分を透明にして、 目の前に現れてくる見過ごしてしまいそうなものをそのまま観察して受け入れる、 ということです。 その詩を声に出して読んだ時に、 自然にそのまま身体に入ってくる感覚がありました。 索引を調べたら、 その詩集がちょうど 100 年前の 1925 年に出版されたと分かり、 そういう点にもどこか縁を感じました。

──最後に、 今回の展示を見に来てくださる方へメッセージをお願いします。

林田:
頭の中が忙しく、 すぐに答えを求めがちな日々の中で、 今回の展示を見ていただく時間が頭を空っぽにしてご自身の静かな場所に帰っていけるようなひと時になれば嬉しいです。


林田摂子 写真展「森にふれる」

写真集 『森にふれる』 より photo:Setsuko Hayashida

 
 

Information
林田摂子 写真展 『森にふれる』


会期:2026 年 5 月 2 日 (土)〜 17 日 (日)
作家在廊予定日:5 月 2 日 (土)、 3 日 (日)、 4 日 (月・祝)
営業時間:12:00〜17:00 定休日:5 月 6 日(水)、 7 日(木) 、 12 日(火) 、 13 日(水)
会場:GALLERY CLASKA (住所:東京都港区南青山2-24-15 青山タワービル9階)
●東京メトロ銀座線 「外苑前」 駅 b1出口より徒歩1分

詳細は 「GALLERY CLASKA」 の Instagram をご覧ください。