40代からのカジュアルスタイル再入門

「最近、 服が似合わなくなってきた気がする……」。
こんな風に感じた経験はありませんか ?
30代後半から40代にかけては、 装いのアップデートが必要になる 「おしゃれ過渡期」。
この先も好きな服を着て自由におしゃれを楽しむためのコツを、 CLASKA 世代のスタイリスト 伊東朋惠さんに教えてもらいました。

写真:清水奈緒 スタイリング:伊東朋惠 聞き手・編集:落合真林子 (CLASKA)


CONTENTS

前編/ 自分らしい "大人っぽさ" を探して

後編/ Over 40 のおしゃれ Q&A


お話を伺った方
伊東朋惠 (いとう・ともえ)


スタイリスト。 雑誌、 書籍、 広告を中心に、 フードやファッション、 インテリアなどのスタイリングで幅広く活躍。 フォトグラファーの夫、 11歳の息子、 猫と暮らす。 自身で手織りした織物やアンティーク雑貨を販売するプロジェクト 「IAMCLUMSY」 をスタート。

Instagram@tomoeitoworks @iamclumsyclumsyclumsy


前編/
自分らしい "大人っぽさ" を探して

──伊東さんには CLASKA 発のアパレルブランド 「HAU (ハウ)」 のウェブカタログのスタイリングでお世話になっていますが、 大人っぽさの中にもユーモアのある提案が毎回お客さま、 そしてデザイナーをはじめとした社内スタッフにも好評です。 いつもありがとうございます。

伊東朋惠さん (以下、 敬称略):
いえいえ、 こちらこそ !

──今回は 「40代からのカジュアルスタイル再入門」 をテーマに伊東さんにお話を伺えたらと思っているのですが、 そもそもこの企画をやってみようと思ったのは、 同世代 (40代前後) の友人・知人との間で 「最近、 今まで着ていた服に違和感が……」 という話題が増えてきたことがきっかけなんです。 そういえば以前、 伊東さんともそんな話をしたなぁと。

伊東:
そうでしたね。

──40代前後の女性の多くが感じる違和感の正体を探りつつ、 おしゃれをうまくアップデートしていくためのヒントを伺えたらと思っています。 改めての質問になりますが、 伊東さんがご自身の服装に違和感を持ちはじめたのは何歳くらいの頃でしたか?

伊東:
40歳になる少し手間くらいだったと思います。 好きな服と似合う服がずれてきたというか、 顔と服が分離している感じがするなぁと気になりはじめたものの、 何となくやり過ごしていました。 でも……42歳の時だったかな。 「このままじゃ駄目だ」 と、 はっきり自覚したんです。 たまたま写真に写った自分の姿や、 街を歩いている時にふと鏡に映った自分を見た時に恥ずかしくなってしまったというか、 「ど、 どうしよう!」 と (笑)。 そこから少しずつ自分のワードローブを見直していきました。


スタイリストの伊東朋惠さん。


"大人っぽさ" って何?

──伊東さんは、 いつも素敵にカジュアルスタイルを着こなしていらっしゃいますが、 若い頃から服の好みは変わりませんか?

伊東:
そうですね。 カジュアルスタイルが好きという大枠は変わっていません。 身長が低く、 顔立ちや体型に個性があるタイプではないと自覚していましたし、 若い頃からいわゆる "定番もの" が似合わないことがコンプレックスでした。 リーバイスのデニムもシンプルなTシャツもいまいち似合わなくて。 それをカバーするため、 変わったデザインの服やユーモアのある柄の服を着る機会が多かったです。

──カジュアルスタイルを好む人特有の悩みかもしれませんが、 ある一定の年齢に差し掛かっていざ年相応の装いをと思っても 「さて、 どうしよう ?」 と悩んでしまう感じがありますよね。 リアルな話、 体型の変化や顔立ちの変化もありますし。

伊東:
そうですね。 私の場合は、 出産後に一気に体型が変わりました。 それまで好きで着ていたブランドは比較的若い世代向けだったこともあり、 "無理して着ている感" が出てきてしまったんです。 でも、 世間一般でいう大人っぽい服は着てこなかったし、 どうしよう……と迷ってしまって。

──すごく共感します。 そもそも 「大人っぽさ」 とは何なのかが、 いまいち分かりません。

伊東:
そうなんですよね (笑)。 でも、 スタイリストという職業柄そうもいってはいられませんから、 意識的に自分の周りの素敵な先輩たちの装いを観察しながら 「こういう感じだったら私にも似合うかも」 という落としどころを、 徐々に見出していった感じです。

──「素敵だな」 と感じる装いに、 何か共通するルールはありましたか?

伊東:
"メリハリ上手" な人の着こなしに惹かれました。 ユーモアを感じるけど素材が上質なアイテムを上手に取り入れていたり、 中に着ているTシャツはチープだけど羽織るものは上質だったり。 ここでいう "上質" というのは、 必ずしも高価なものという意味ではなくて……。

──イコール高級ブランドではない、 ということでしょうか。

伊東:
そうですね。 具体的にいうと、 シルク素材のアイテムだったり、 革製の靴だったり、 天然石のジュエリーだったり。 すべてをそういったもので固めるのではなく、 自分が好きで着てきた服をベースにした装いの一部に上質アイテムをプラスして、 自分が落ち着く "大人っぽさ" に調整していく。 今はそういう方法に落ち着きました。


伊東さん私物のシルク製の羽織りもの。 「TOWAVASE」 や 「uryya」 の物を好んで着ているそう。 「シルクの羽織りは一着持っていると本当に便利です」 (伊東さん)


機嫌よくおしゃれを楽しむために

──一概には言えませんが、 私たちの親世代はある一定の年齢になったら 「お母さんらしい・お父さんらしい服装」 をしていたような印象があります。 でも、 いざ自分がその年になってみたら全くそんなことは無くて、 今は年齢関係なく自分が好きな服を自由に着られる時代になったんだなと実感しています。

伊東:
例えばオールインワンのように "ちょっとハードルが高いな" と感じるアイテムを 10代の人も 50代の人も着たりしますし、 ファッション誌などを見ても 30代と 50代の着こなしってそこまで大きく変わらないですよね。 一人ひとりが自分の感性でファッションを楽しむいい時代だと思います。

──世代を超えてという意味では、 ここ 10年程ですっかり定着したオーバーサイズシルエットの服は程よいトレンド感もあり、 体型の変化が気になる40代以降の女性も気軽に取り入れやすいですね。

伊東:
そうですね。 でも、 着こなし方によっては若作りに見えてしまったり、 一昔前の着こなしに見えてしまったりするので、 そこは気を付けたいところです。

──そうならないためのポイントはありますか?

伊東:
合わせるボトムスを、 今の自分の体型を綺麗に見せてくれるものにアップデートするといいと思います。 特にデニムは、 定番アイテムでありつつもシルエットに時代が反映されやすいので、 要注意です。 オーバーサイズの服に限らずですが、 リネンの素材の服やコットン Tシャツなど、 柔らかい素材の服を着る時はしわしわの状態で着ないことも大切ですね。 洗いざらしの良さもありますが、 状態によってはスチームを当ててから着るだけで清潔感が出ます。

──確かに。 10代の子であれば多少のしわもご愛敬ですけど、 大人は気を付けなければいけませんね。 足の甲から先が出るサンダルを履く時はペディキュアを塗ったり、 上質なアクセサリーを付けたり、 細かい部分に気を遣うことで洗練された印象になりそうです。

伊東:
そうですね。 さりげない大人っぽさを演出してくれるものとして個人的に重宝しているのが、 天然石を使ったアクセサリーです。 ポップな色使いや可愛らしいモチーフのものでも、 天然石だとどこか大人っぽさを感じるんですよね。 カジュアルなTシャツやワンピース、 デニムなどに合わせて楽しんでいます。


すべて伊東さん私物。 カラフルな天然石のアクセサリーは山本亜由美さんによるブランド 「murderpollen」 のものが多いそう。


自分の気分は周りに伝わる

──先ほどお話いただいたように、 今は基本的に年齢問わず誰もが好きな服を着る時代ですが、 特に40代以降は純粋に "自分のために" おしゃれを楽しむことができる、 或る意味一番楽しい年代なのかもしれません。 成功も失敗もしてきて、 自分の好きなものもある程度見えていて、 若い時とはまた違った楽しさがあるというか。

伊東:
私は、 買い物の仕方が随分変わりました。 20代から 30代にかけては自分に似合うものをひたすら探していて、 気になるものはとりあえず着てみる感じだったので……周りの人に 「会うたびに印象が違うね」 と言われていたくらいです。 でも、 ある程度の年齢になってくると量より質というか、 よく考えて買い物をするようになりました。 40代になってから買ったもので 10年近く着ているものもありますし、 やはり良いものは長持ちするんだなぁと。 自分にとっての新たなベーシックアイテムが見えてきたことで、 ますますおしゃれが楽しくなりました。


自分で裾をカットしたという古着のリーバイスと、 愛用している 「パラブーツ」 のローファー。

──改めて、 伊東さんが考える 40代以降のおしゃれを楽しむコツを教えてください。

伊東:
若い頃は 「おしゃれは我慢」 みたいなところがあったじゃないですか。 たとえば、 寒くてもミニスカートを履くとか素足にサンダルを履くとか。 でも今は、 我慢するのは嫌なんですよ (笑)。 「その日の気候と場の雰囲気に合ったものを着る」 というのが、 一番いいんじゃないかと思うんです。

──なるほど。

伊東:
もちろん具体的な着こなしテクニックもありますけど、 基本は "無理をしない" ことが大切。 例えば、 二の腕にコンプレックスがあるけどノースリーブに挑戦してみようと思ったとします。 もちろんそういう気持ちは大切ですが、 二の腕が気になって一日中ソワソワしてしまうのであれば、 やはり止めたほうがいいと思うんですよね。 40代以降は身体の不調も出てきますし、 身体を締めつけないとか、 肌に触れて気持ちがいいとか、 暑くない・寒くないとか……。 「いかに1日を機嫌よく過ごせるか」 ということがすごく重要になってくると思います。

──機嫌よくいられる服を着ていれば、 その内面の充実が周りにも伝わるというか、 結果おしゃれに見えるのかもしれませんね。

伊東:
そうそう。 街を歩いていると、 「お気に入りの服を着ているんだろうな」 と思わせる人っているじゃないですか。 そういう感じが理想ですね。

──おしゃれをアップデートするためのベースとなる考え方を伺ったところで……後編では、 「Over 40 のおしゃれ Q&A」 と題して、 おしゃれ過渡期ならではの疑問に対して具体的なアドバイスを頂けたらと思います。

伊東:
はい! 引き続きよろしくお願いします。


 

後編へつづく