古賀充展「BETWEEN THE SEA AND THE TOWN」

Interview / 古賀 充 展 「BETWEEN THE SEA AND THE TOWN」

古賀 充の現在地

暮らしの中での観察や気づきを起点とした、 ありのままの作品づくり。
昨年に引き続き、 作品を通して古賀さんが眺める世界を体感できる場をお届けします。
今年で 12 回目を迎える CLASKA での個展。
神奈川県茅ヶ崎市にある古賀さんのアトリエを訪ね、 今回の展示についてお話を伺いました。

写真:柳川暁子(CLASKA) 文・編集:落合真林子(CLASKA)




Profile
古賀 充 Mitsuru Koga


1980年生まれ。 造形作家。 日常に潜む美しさや面白さを様々な手仕事によって作品にし、 国内外の展示会にて発表。

HP:https://mitsuru-koga.com Instagram:@mitsurukoga_works
Interview:「つくる人 Vol.1 古賀 充 前・後編」


いつでも真ん中に立って

──まずは、 今回の展示タイトルが 「BETWEEN THE SEA AND THE TOWN」 に決まった経緯についてお聞かせください。

古賀 充さん (以下、 敬称略):
去年から今年にかけて、 新しい絵本 『すなにぎゅー』 (福音館書店) の撮影をするために、 一時期は毎日のように海へ足を運ぶ生活をしていました。 朝、 皆が海とは反対方向にある駅へ向かう中、 自分は誰もいない海に行ってひたすら撮影をしてアトリエに戻って制作をして……ということを繰り返していたのですが、 この 「行ったり来たりする」 という行為が、 自分の作家としてのパーソナリティとすごく近いなと感じたんです。

──具体的にはどういうことですか?

古賀:
僕の作品は海で拾った石や枯れ葉など自然物を素材にしたものがありつつ、 段ボールやワイヤーなど自然とは反対側にある人工物を使ったものもあって、 その時々でそれぞれの間を行ったり来たりしながら制作をしています。 そんなニュアンスのタイトルがいいなということをクラスカのディレクター大熊さんに話して、 今回のタイトルを考えてもらいました。 ある意味、 明確なテーマや方向性が定まっていない展示とも言えるのですが (笑)。 今の自分の感性に正直になって、 一つひとつかたちにしていった作品を展示させていただく予定です。


古賀充展「BETWEEN THE SEA AND THE TOWN」

──つまり、 古賀さんの現在地を確認できる展示、 ということでしょうか。

古賀:
そうですね。 ここ最近はどちらかというと自然物のほうに心が動かされることが多いのですが、 どんな作品をつくるにしても、 気持ち的には SEA と TOWN の真ん中に立っている感覚があります。 僕にとって自然は綺麗でもあるけど同時に怖れを感じる存在で、 「いつか呑まれてしまうんじゃないか」 と感じる時もあるんですね。 じゃあ人工物の作品をつくっている時は安心・安全なのかといったらそうではなくて、 そればかりやっていたら自分がプロダクト化されそうな気持ちになってしまう (笑)。 結局どちらにいてもそれぞれの難しさがあるからこそ、 間に立って制作をしているのかなと思います。

──ものづくりをしている人に限らず、 そういった感覚は多くの人が備えているものかもしれませんね。 どちらか一方に偏ってしまうと時にしんどくなるから、 心と身体に正直になって、 バランスをとりながら日々生活をして。

古賀:
今回の展示の DM 用に書いたテキストの中に 「ふと心を動かされるものに、 正直でありたいと感じています」 という一文があるのですが、 まさにそういうことですね。 「植物の形が綺麗だな」 と感じたら、 その感覚をそのまま作品にできる自分でありたいと思っています。 今感じたことがいつか何かの形になるかもしれないという思いで 20 年程続けてきた結果、 海の石にはじまり色々なところに居場所ができました。 その時の気分で色々なところへ行けるので、 とても健康的だなと感じています。


古賀充展「BETWEEN THE SEA AND THE TOWN」

古賀充展「BETWEEN THE SEA AND THE TOWN」


"形のための形" ではなく

──今回の展示では、 これまでに発表してきたシリーズに加えて 「GALLERY CLASKA」 では初登場となる作品も登場します。 新たな作品が生まれる経緯やきっかけについて教えてください。

古賀:
色々なパターンがありますが、 例えば版画でつくった山の作品は古いポストカードを使った 「PUZZLE」 という作品の制作がきっかけになって生まれました。 モノクロの山の景色がプリントされたポストカードをパズルの形に一つずつカットする作業を通して、 自分の脳裏に山のビジュアルが焼き付いたんでしょうね。 ある時くしゃくしゃになった紙を見た時に 「この感じ、 山肌の陰影に似てるな」 と感じたんです。 そこが出発点になりました。


古賀充展「BETWEEN THE SEA AND THE TOWN」

──そういう風に繋がったんですね。 同じく今回初登場となる鳥の羽をモチーフにした作品は、 漁師網を使って制作されたとか。

古賀:
はい。 絵本のビジュアルをつくる時に、 何か紐状のものが欲しいなと思って海岸に漂着した漁師網を拾っては保管していたのですが、 改めて眺めてみるとそのカラフルさがとても新鮮で。 ぼんやりと網を眺めながら 「化学繊維だから、 熱を加えたら溶けるよな。 そういえば鳥の羽ってツヤがあって、 光の当たり具合によっては中央部分が透き通って見えたりして……質感が似ているかも」 と思いはじめて。 その気づきをきっかけに作品が生まれました。

──もともと、 鳥の羽はモチーフとして気になっていたものだったんですか?

古賀:
普段から気になったものは拾って保管しておいたり写真で記録したりしているのですが、 鳥の羽もいくつか家にありました。 拾った時はそれが将来的に何かになるとは思っていなくて、 たまたま漁師網と鳥の羽の共通点に気がついた感じです。 こういうケースはよくありますね。


古賀充展「BETWEEN THE SEA AND THE TOWN」
古賀充展「BETWEEN THE SEA AND THE TOWN」

──ジャンルに関わらず何かとカテゴライズをしたり、 合理性やコストパフォーマンスが求められがちな現代において 「一見関係のないもの同士が、 ある日突然繋がった」 という時間の流れはとても豊かなものに感じますね。 形ありきのゴールが決まったものづくりではなく、 古賀さんが感じたことがそのまま形になる。 まさに、 先ほどおっしゃっていた 「心を動かされるものに正直に」 ということだと思うのですが。

古賀:
僕の場合 「こういう形がつくりたい」 というところから逆算してゴールを目指すのではなくて、 はじまりは "心が動くかどうか" というところですからね。 自分の経験や感じたことを "つくること" に置き換えて、 その流れで形にしていくという順番なので。

──「形のための形ではない」 ということですね。

古賀:
作品を綺麗に仕上げることはもちろんですが、 僕の場合は完成に至るまでの "工程" に一番エネルギーと情熱を注いでいるので (笑)。 もちろん出来上がった作品に対して興味がないわけじゃないし評価して頂きたい気持ちはありますが 「これはこれで、 ひとつの思い出だから」 と、 どこか一歩引いて眺めている感じはあります。 作品を展示することは、 どこか自分の思い出をシェアするような感覚があって……。


古賀充展「BETWEEN THE SEA AND THE TOWN」

──「思い」 ではなく 「思い出」 なんですね。

古賀:
そうですね。 作品に思いを込める必要は無いと思っているんですけど、 どの作品にも 「これをつくる時、 あの工程でちょっとだけ苦労したんだよなぁ」 というような時間や記憶は確実に刻まれていますからね。 たまに、 過去に購入してくださった方から作品をお預かりして修理やメンテナンスをさせていただく機会があるのですが、 作業中にその作品をつくった時の記憶が蘇ってくることがあったりして。 自分にとっては、 ある意味私的なアルバムみたいなものかもしれません。


古賀充展「BETWEEN THE SEA AND THE TOWN」

空想が形になる時

──今回の会場でも販売させていただく、 4 作目となる新作の絵本 『すなにぎゅー』 についてもお話を聞かせてください。 今回は 「海の砂あそび」 がテーマで、 自分の手や貝殻、 その他様々な形のものを砂に押し付けたらどんな跡ができる……? という楽しい内容です。

古賀:
構成から撮影まで全てを担当させていただいたのですが、 実はもともと 「光と影で形が浮き出るような、 立体の作品をつくれないかな?」 とぼんやり考えていて、 それが結果として絵本という形で実現しました。 最初は気がつかなかったのですが、 海辺で撮影をしているうちに 「形って、 光と影があることではじめて見えてくるんだ」 ということに気がついて。 これってつまり、 光と影でつくる彫刻の絵本じゃないか! と。


古賀充展「BETWEEN THE SEA AND THE TOWN」
古賀充展「BETWEEN THE SEA AND THE TOWN」

──面白いですね。 ちなみに、 絵本をつくる時の感覚は通常の作品をつくっている時とは異なりますか?

古賀:
体力とか頭の使い方は作品をつくっている時と変わらないのですが、 今回の絵本の場合は他の作品と違って外で集中しなきゃいけないのが大変でした。 やっぱり 「綺麗に仕上げたい」 という気持ちが強くて、 撮影に協力してくれた息子に嫌がられながら 「なるべく綺麗な形を」 と、 光の向きを試行錯誤しながら何度も撮影をやり直して。 そういうところは普段作品をつくる時と全く同じでしたね。

──最後に、 今回の展示の見どころについてお聞かせください。

古賀:
今現在の自分が感じていること、 心が動いたものをそのまま素直に形にした作品が並びます。 お馴染みの作品に加えて新たなシリーズもご覧いただけますので、 是非会場へ足をお運びください。


古賀充展「BETWEEN THE SEA AND THE TOWN」





Information
古賀 充 展 「BETWEEN THE SEA AND THE TOWN」


会期:2026 年 9 月 26 日 (土)〜 10 月 11 日 (日)
営業時間:水曜〜日曜 12:00〜17:00
休廊:月・火曜 会場:GALLERY CLASKA (東京都港区南青山2-24-15 青山タワービル9F)
●東京メトロ銀座線「外苑前」駅 1b 出口より徒歩1分