TOKYO AND ME

東京で暮らす人、 東京を旅する人。
それぞれにとって極めて個人的な東京の風景を、 写真家・ホンマタカシが切り取る。

写真:ホンマタカシ 文・編集:落合真林子 (CLASKA)


Vol.69 テリー・エリス
( 「MOGI Folk Art」 オーナー ) 

 

PLACE : 銀座 (港区)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Sounds of Tokyo 69. ( The sound of Wako's bell in Ginza )


ロンドンでセレクトショップのバイヤーとして働いていた 1980 年代、 日本人のお客さんたちとの出会いを通して日本との接点が生まれました。

もともと 「COMME des GARÇONS」 や 「Yohji Yamamoto」 など日本のファッションブランドは知っていましたが、 ロンドンを訪れるファッション好きな日本人のお客さんたちが着ていた服がとても面白くて興味を持ちました。
お店に来てくれた日本人の中にはデザイナーの菊池武夫さんや金子 功さんもいて、 そうした人たちのスタイルを間近で見るうちに、 日本、 そして東京ならではのファッションに対するイメージが少しずつ自分の中でかたちづくられていったように思います。

はじめて東京を訪れたのは 1985 年、 働いていた店の仕入れが目的でした。
当時日本のファッションシーンは DC ブランド全盛期。 セレクトショップは 「ビームス」 や 「シップス」 があるくらいで、 扱っているのはアメリカのものが中心でした。 ロンドンには日本で流行していたアイビールックみたいなものは無かったので、 とても新鮮に感じたことを覚えています。
実は、 小津安二郎の映画を通して東京の暮らしや風景に触れていたこともあって東京の街には至る所にお寺や竹林があるようなイメージを抱いていたのですが、 全く違いましたね (笑)。 それでも、 現代的なビルの隙間に古い建物が残っている一角もあったりして、 新しいものと古いものが隣り合わせに存在している様子がとても印象的でした。

その後ビームスのロンドンオフィス勤務になり、 バイイングの仕事で東京とロンドンを行き来するようになりました。 東京の様々な街に触れてきましたが、 その中でも銀座は特に好きな街です。
東京は若い人たちのための街が多い印象がありますが、 銀座は "大人のための街" ですよね。 最初に銀座を訪れたのはまだ 20 代半ばの時でしたから、 なおさらそう感じたんだと思います。
「入って大丈夫なのかな?」 と思わせるような、 間口の小さなアートギャラリーや個人店。 一見さんお断りのひっそりとしたバー、 日が落ちてくるとキラキラしたドレスで着飾った女性たちが路地を行き来する様子は、 とてもミステリアスな光景でした。

「和光」、 「銀座松屋」、 「銀座たくみ」、 「銀座ウエスト」、 「ざくろ」。
何度か銀座へ足を運ぶうちに、 好きな店がどんどん増えていきました。 ジャンルに関わらず昔ながらの日本の高品質なものづくりに触れることができる、 貴重な街だと思います。

和光は建物も素晴らしいですよね。 若い頃は高い時計なんて買えませんでしたけど、 セイコーの時計の素晴らしさに魅了されてから度々足を運ぶようになって、 顔なじみの店員さんができました。
その方がとても面白い人で、 時計のこと以外にも和光が扱う良いもの、 おすすめのものを色々と教えてくれるんです。 本店の横にある食品を扱う 「和光 アネックス」 に季節の美味しいものが入荷すると、 わざわざ連絡をくれたりして (笑)。 そういう魅力的な "人" がいるからこその、 和光なんだな、 と。

老舗民藝店の銀座たくみさんにも、 色々なことを教えてもらいました。 ビームス時代に立ち上げた 「フェニカ」 で民藝の品を扱いはじめた頃に特によく足を運びましたが、 今でも行くたびに何かしらの発見があるお気に入りの場所です。
あとは、 足を悪くして杖が必要になってから通うようになった 「銀座タカゲン」。 明治に創業した、 日本で最初の杖専門店です。 なかなか輸入が難しいであろう珍しい素材を使ったものが色々あって、 僕の故郷であるジャマイカの木で出来た杖を見つけた時は驚きました。
和光も、 たくみさんも、 タカゲンさんも、 いつ店に足を運んでも同じ人が出迎えてくれる。 そういう安心感も、 銀座で買い物する愉しみの一つだと思います。

2022年にビームスから独立して高円寺で自分の店をはじめましたが、 店を営む立場としても銀座の店や人から学んだことが沢山あります。

以前来てくれた時にそのお客さんが何を買って、 何に興味を持ったのかを覚えておくということ。 お客さんが買う ・ 買わないに関わらず、 展示やイベント等 "店に来てもらうきっかけ" を定期的につくるということ。 そして何より、 「値段に捉われず、 良いものを見せていく」 という心意気でしょうか。
「うちに来るお客さんは、この価格帯以上は無理だろう」 と決めつけず、 何を買うのかはお客さんに選んでもらう。 値段に捉われてしまったら、 本当に自分が良いと思うものを扱えなくなってしまいますからね。

僕は和光 アネックスのアップルパイが好きなのですが、 アップルパイは 1000 円出せば買えるけど、 隣の和光本館に行ったら 1000 万円の時計が売っていたりするわけです。 そういうのが面白いなと思うんですよね。 自分には買えなくても良いものを見るだけで楽しいし、 その経験はまたその店に足を運ぶ理由になりますから。
そういう気持ちにさせてくれる街は、 東京の中では銀座だけなんじゃないかな。


Profile
テリー ・ エリス Terry Ellis


1961 年ジャマイカ生まれ、 ロンドン育ち。 2003 年に 「ビームス」 で 「フェニカ」 を立ち上げる。 2022年に独立し、 北村恵子とフォークアートやオリジナルのウェアなどを揃えるショップ 「MOGI Folk Art」 を高円寺に開店。 2024年には同じく高円寺に2つ目の店 「MOGI & MOGI Gallery Shop」 をオープン。

Instagram: @_terry_ellis_ @mogi_folk_art @mogi_and_mogi

東京と私