

TOKYO AND ME
東京で暮らす人、 東京を旅する人。
それぞれにとって極めて個人的な東京の風景を、 写真家・ホンマタカシが切り取る。
写真:ホンマタカシ 文・編集:落合真林子 (CLASKA)
Sounds of Tokyo 67. ( Royal Host Kagurazaka-ten )
地元は福岡です。
戦後、 祖父と一緒にビアガーデンを営んでいた父は、 柳宗悦・河井寛次郎・濱田庄司らが提唱した民藝運動に熱中し、 自ら 「小代瑞穂窯」 を興した民藝のつくり手でもありました。
ビアガーデンも小代瑞穂窯も、 今は妹が父のあとを継いでくれています。
家にある日用品は当然、 民藝関係のものばかりでした。
例えばお弁当箱ひとつとっても、 私は当時流行っていたピンク色のプラスチックのお弁当箱が良かったのに、 親に持たされたのは 「曲げわっぱ」 のお弁当箱。 友達のお父さんたちと違って、 父は作務衣、 母は絣の着物を着てるし。 子ども心に、 「私は "ふつう" がいいんだよ !」 と思っていましたね。
今思えば単なる思春期だったと思うのですが親の職業に対してコンプレックスがありましたし、 地元に対しても "ここじゃない" 感が強かったので、 東京への憧れはかなり早い段階からありました。
子どもの頃の将来の夢は漫画家。
中学生の時に 「東京の女子美の付属に行きたい」 と思って、 自分で受験用の過去問題集を取り寄せたりしました。 高校生での上京は叶いませんでしたが、 東京の美大に進学することを目標に美術予備校に通いつつ、 夏休みには自分で調べて見つけた東京の予備校の夏期講習にも通わせてもらいました。 結局、 一浪したんですけどね (笑)。
「武蔵野美術大学」 への入学を機に上京して、 最初に住んだのは国分寺。
神楽坂で暮らしはじめたのは結婚した後で、 選んだ理由は家賃が予算に合っていたことと立地の良さ ・ 便利さでした。 もう 30 年程経ちます。
今はだいぶ面影が薄くなりましたが、 元々は江戸の風情を残す東京屈指の花街、 ですよね。
越してきた頃は、 裏通りに入ると風情のある黒塀が続く一角が結構残っていて、 芸者さんの姿も時々見かけたりしました。
神楽坂は時に "東京のパリ" と称されたりしますが、 15 年程前まで市ヶ谷にフランス人の子どもたちが通う 「リセ・フランコ・ジャポネ・ド・東京」 があったこと、 それから 「東京日仏学院」 の存在が大きいのではないかと思います。 リセが別の町に移転して以降神楽坂で暮らすフランス人の数が減った気がしますが、 フランス料理店やビストロの多さは今も変わらずです。
ただ、 個人的には神楽坂で外食をするとなったら福岡にルーツがある 「ロイヤルホスト」 一択なんです。 やっぱり、 福岡出身者としてはそうなりますよね。
神楽坂らしい風景として頭に浮かぶのは、 昔ながらの自転車屋さんとフランスから来たパティスリーが並ぶ様子。 歴史あるものと外国の文化が同居している感じが、 神楽坂らしい眺めだなと思います。
あとは自宅の近くにある、 出版社の 「新潮社」 ですね。 はじめて神楽坂に来た時に新潮社の社屋を見て、 外壁タイルに並んだ白い窓枠と別館入口の谷内六郎のタイル絵が印象に残りました。
打ち合わせに時々お邪魔する機会があるのですが、 食関連で言うと新潮社の本館には 「1970年代で時が止まっているのか…?」 と思わせるようなクラシックなラウンジがあって、 サンドイッチセットとかの軽食が楽しめるのがいいですね。 最近では 『工芸青花』 誌からの派生で登録有形文化財の旧出版倉庫を改装したギャラリー 「soko」 も出来ました。
仕事の打ち合わせで出版社にお邪魔するのが好きです。
私、 いわゆるアミューズメントパークで心の底から 「楽しい!」 と思えたことが無いんですよ。 それよりも、 東銀座の 「マガジンハウス」 のエントランスでポパイとオリーブが描かれたガラスの扉が開くことだったり、 「講談社」 の担当編集さんが打ち合わせの後に幽霊が出るという噂がある古い洋館の旧社屋に連れて行ってくれたり……仕事で伺っているわけですが、 同時に私、 今、 東京観光しているなと感じます。
私にとって東京は、 "長期観光中の場所"。
長く旅を続けるとなると当然お金も稼がなきゃいけないから、 菓子研究家としての仕事、 その他ご縁があっていただいた仕事に対して真摯に向き合ってきたつもりですが、 今現在の基本的な自己認識と立ち位置は 「誰よりも真面目にやってるバイトリーダー」 で落ち着いています。
これまで関わらせていただいてきた仕事の中でも、 25 年続いた雑誌 『装苑』 の連載取材は、 ある意味最高の "東京観光" だったと言えるかもしれません。
長年にわたって、 都内を中心に色々なお店や人にインタビューをさせていただいて、 最終的には幼い頃から憧れていた漫画家の萩尾望都先生のご自宅でお話を伺う機会をいただいたんですよ。 本当、 夢みたいな話で。
子どもの頃の夢だった漫画家にはなれなかったけど、 自分が著者になって 「漫画とお菓子」 をテーマにした本を出したり、 ずっと大好きだった漫画家の先生にインタビューする機会をいただけたり、 大好きな漫画や映画、 アニメについてラジオで語り倒したり……。
相変わらず日々、 東京を観光しています。
Profile
福田里香 Ricca Fukuda
菓子研究家。 書籍や雑誌、 レシピ提供にはじまり、 お菓子のレシピ開発など食にまつわるモノ・コトのディレクションを手掛ける。 『新しいサラダ』 (KADOKAWA)、 『民芸お菓子』 (Discover Japan) など著書多数。 料理本のほか、 映画や漫画などの中で取り上げられる 「フード表現」 の法則や意味を紐解いたコラム集が文春文庫から 『物語をおいしく読み解く-フード理論とステレオタイプ50』 と題して復刊。
Instagram: @riccafukuda
東京と私