「Project/Object」 KOJI YAMAMOTO

Interview / 「PROJECT/OBJECT」 KOJI YAMAMOTO

この世の美しさを再編集する

GALLERY CLASKA としては約3年ぶりの開催となる、 造形作家・山本考志さんの企画展。
現代に適した "包み" を考えるブランドとして 2014 年に始動した 「HOW TO WRAP_ 」、 そして新プロジェクトの 「TENSEGRITYLAB.」 など、 山本さんの手仕事によるオブジェが一堂に会します。
東京都内の山本さんのアトリエを訪ね、 作品が生まれた背景やつくり手としての思いについて伺いました。

写真:柳川暁子 (CLASKA) 文・編集:落合真林子 (CLASKA)




Profile
山本考志 Koji Yamamoto


大学卒業後、 2002年にヴィンテージやオリジナルプロダクトを扱うインテリアショップに勤務。 その後、 輸入家具商社、 外資家具ブランドを経て、 2024年に独立。 日本発のデザインジャーナルマガジン 『Ilmm』 の創刊メンバーとして、 企画・運営に携わる。 造形作家として 〈 HOW TO WRAP_ 〉、 〈 TENSEGRITYLAB. 〉 の活動を行う一方、 ショップの MD やインテリアプロジェクトにおけるコーディネートも手がける。

Instagram@howtowrap_ @tensegritylab


自然物と手仕事が結びついて生まれる美しさ

「Project/Object」 KOJI YAMAMOTO

──まずは、 山本さんのこれまでの歩みについて伺いたいと思います。 2014年に 「HOW TO WRAP_ 」 を立ち上げた経緯からお聞かせいただけますでしょうか。

山本考志さん (以下、 敬称略):
きっかけのひとつは、 当時勤めていた会社を退社したことです。 すぐに次の会社に就職せずに、 しばらくは自分のやりたいことをやってみようと思い、 以前から興味を持っていた日本の 「包む」 文化に関わる活動をはじめました。

──「包む」 というテーマに興味を持ったきっかけは何でしたか?

山本:
かつてイームズやネルソンといったモダンデザインを扱うショップで働いていたのですが、 その頃から日本のモダンデザインにも関心を持つようになりました。 特に柳宗理の仕事が好きで、 日本の伝統文化をモダンな視点で捉える姿勢に惹かれたんです。 自分でも同じような視点で古い書籍などを見る中で、 岡秀行さんの 『日本の伝統パッケージ、 その原点とデザイン』 という本に出会いました。 それをきっかけに 「包む」 という文化に興味を持つようになった感じです。

──岡秀行さんは、 日本のデザイン黎明期に伝統的なパッケージの収集と研究をした方ですね。

山本:
さらに遡ると、 包みに興味を持つ以前、 柳宗理の著作で知った 「花紋折り」 という折り紙の技法にも関心を持っていました。 折り紙作家の内山光弘さんが考案したものなのですが、 柳宗理が 「花紋折りはマックス・ビルのグラフィックに近いところがある」 と書いているのを読んで興味を持ったんです。 もともとグラフィックや幾何学的なものが好きだったこともあって、 包みに対してもそうした要素を感じたのだと思います。 岡秀行さんの本に出会ってから、 昔ながらの包みを現代における "生きたデザイン" としてラッピングに落とし込んでひとつのブランドとして成立させることはできないか? など色々考えましたが、 なかなか具体的なかたちにはなりませんでした。


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──そうした試行錯誤の中で、 「石を包む」 というところにたどり着いたのですね。

山本:
日本の伝統文化の中から、 現代の生活空間に置いても違和感のないモダンさを持つものはないかと考えていた時、 日本庭園や寺社で見かける 「関守石 (止め石)」 に目が留まりました。 とても簡素なものですが日本人の美意識を象徴しているように感じて、 関守石をオブジェとしてつくってみようと考えたんです。

──「HOW TO WRAP_ 」 は、 主に自然の石を革紐で結び包む 《Wrapped stone》 と、 関守石をモチーフにした 《TOMEISHI》 から構成されています。 こういった類の作品をつくる作家は、 山本さんがはじめた当時他にも存在したのでしょうか?

山本:
調べてみたところ、 アメリカには何人かいるようでした。 中でも Deloss Webber (デロス・ウェバー) というアーティストは先駆者的な存在で、 40年以上前に竹籠細工や籐細工の技法を使って石に紐を巻き付ける作品を制作しています。 彼の作品に対しても関守石と同じく "自然物と手仕事が結びつくことで生まれる美しさ" を感じました。

──なるほど。

山本:
当初は作家として作品をつくるというより 「こういうものがプロダクトとして成立したら面白いな」 という感覚だったのですが、 15 年ほど前、 あるプロジェクトにデザイン開発者の一人として参加したことがきっかけになって、 素材の調達から制作まで全て自分の手で行う現在のスタイルに行きつきました。 そのプロジェクトでは 「大理石に高級レザーで結びを施す」 という超ハイスペックな関守石を提案したのですが、 制作を進める過程で自然な石のフォルムは人工的にはつくることができないということを知ったんです。 ならば、 自分で探そうと。

「Project/Object」 KOJI YAMAMOTO

──現在使用されている石は、 ベージュのマーブル模様が印象的です。

山本:
革紐を使うことは最初から決めていたので、 革と相性のいい表情を持った石を探そうと思いました。 ただ、 いざ探してみると "かたちのいい石" というのは意外と身近には存在しないんですね。 本やネットで調べてみても、 小さくてカラフルな石の情報は多いのですが、 自分が求めているようなある程度の大きさの石の情報はほとんどありませんでした。

──石の採集は、 日本海側のあるエリアで行っているそうですね。

山本:
日本海の石は丸くて大きく、 卵型のものが多いんです。 いろいろなご縁があって 「これだ」 と思える石に出会うことができて、 それ以来ずっと同じ石を使っています。


日本人ならではの感覚を揺さぶるもの

──「 HOW TO WRAP_ 」 としての最初の展示はどのように決まったのでしょうか。

山本:
2020年にスタイリストの黒田美津子さんが代官山の蔦屋書店でイベントを開催された際、 「HOW TO WRAP_ として参加してほしい」 と声をかけてくださいました。 それまでは知人に頼まれたらつくる程度で作品として発表することは考えていなかったのですが、 黒田さんのお誘いをきっかけに本格的に作品として制作するように。 イベントでは予想以上に良い反応をいただき、 その後いくつかの展示参加を経て個展を開催するようになりました。

──石の結び方の種類は、現在どれくらいあるのでしょうか。

山本:
今は6種類ですね。

──作品がそれぞれ表情豊かなので、 もっと多いように感じていました。 結び方は、 石のかたちによって適宜選んでいる感じでしょうか。

山本:
そうですね。 球体に近い石であれば関守石になりますし、 石のかたちによって自然と合う結び方が決まってくるんです。 結び方のパターンについては、 今後増やしていけたらいいなと考えています。

── 同じ種類の石と結びで12年ほど作品をつくり続けていて、 飽きてしまうことはありませんか。

山本:
一つとして同じかたちの石はありませんし、 完成した作品も一つひとつ表情が違うので飽きることはありません。 ただ最近は 「もっとシンプルにできないか」 と考えるようになりました。 作品をつくる時は置かれる空間やインテリアとの関係も意識しているのですが、 オブジェとして考えた時、 結びを最小限にすることで "石そのものの魅力" をもっと活かせるのではないかと……。 今回は、 こういった思いを反映して生まれた新作の黒い石のシリーズも展示する予定です。

「Project/Object」 KOJI YAMAMOTO
「Project/Object」 KOJI YAMAMOTO

──見てくださる方々の反応が楽しみですね。 展示の際、 お客さまと作品について会話される機会もあると思いますが、 印象に残っているやりとりはありますか?

山本:
「この結びに意味はありますか?」 ということはよく聞かれますね。 縁起の良い結びなのかどうかを知りたいという方も多いです。 自分の作品についてそれぞれ特定の意味を持たせてはいないのですが、 "結び" には日本の生活文化の中で育まれてきた背景があるということはお話するようにしています。

──結びを見た時に、 そういった意味合いを感じたり求めたりというのは日本人ならではの感性かもしれません。

山本:
日本には、 自然と文脈を察知するハイコンテクストな文化があります。 ただ一方で、 たとえばコンビニエンスストアにコーヒーマシンが登場した当初、 そのデザインがシンプルすぎて操作方法が分かりづらく、 説明のシールが多く貼られるような、 本末転倒ともいえる現象も起こりました。 このように、 日本人には相手を思いやる親切心や利便性を重んじる感覚があり、 誰にとっても分かりやすいようにと、 丁寧に操作を誘導しようとする別の側面もあります。 関守石は、 そうした説明がなくても 「ここから先には入らないで」 というメッセージを自然に受け取ることができる、 日本の文化が生んだ一つの "かたち" です。 自分の作品を通して、 こうした日本人ならではの感覚が、 これからもどこかに残っていくきっかけになったら面白いと思っています。

──今回の展示には、 2023年にスタートした新しいプロジェクト 「TENSEGRITYLAB.」 の作品も登場します。 構造概念 「テンセグリティ」 をオブジェとしてハンドメイド制作するという試みからはじまったそうですが、 テンセグリティとはそもそもどういったものなのでしょうか?

山本:
「テンション (張力) 」 と 「インテグリティ (統合) 」 を組み合わせた言葉で、 1950年代に建築家・思想家であるバックミンスター・フラーが提唱した構造概念です。 学術的なモデルとして知られているほか、 パブリックアートとしても世界中で親しまれています。

「Project/Object」 KOJI YAMAMOTO

──構造の仕組みは一般に公開されているものなんですね。

山本:
はい。 仕組みさえ理解すれば誰でもつくることができます。 もともとは自分の部屋にテンセグリティを飾りたくて制作をはじめたのですが、 その後オブジェとして販売できないかと試行錯誤するようになりました。 ただ、 ミニマルなかたちで成立させるのは想像以上に難しかったですね。 輪ゴムなどでつくれば簡単なのですが、 ワイヤーは張力を持たないので 1mm でも長さがずれると成立しません。 何度もつくっては壊すことを繰り返して、 成立する数値を自分で導き出していきました。

──それは気の遠くなる作業でしたね……!

山本:
約3年かかりました (笑)。 今でもうまくいかないと一日に一つも完成しないことがあります。

「Project/Object」 KOJI YAMAMOTO

シンプルに 「綺麗だな」 と思うものを

──今回の展示タイトル 「PROJECT/OBJECT」 に込めた思いを教えてください。

山本:
自分がやっていることは、 受け継がれてきた文化や構造を編集して未来に繋ぐようなものだと思っています。 作品づくりというより "活動" に近い感覚なので、 「プロジェクト」 という言葉がしっくりきました。 それからこれは余談ですが、 イタリアの家具メーカー、 カッペリーニ社に 「Progetto Oggetto (プロジェット・オジェット)」 というコレクションラインがあって、 その言葉の響きが好きだったこともヒントになっています。

「Project/Object」 KOJI YAMAMOTO

──今回の展示会場には 「HOW TO WRAP_ 」、 「TENSEGRITYLAB.」、 そして山本さんの原点ともいえる 「花紋折り」 など、 これまで山本さんが制作してきたものが一堂に会する予定です。 それぞれ佇まいは異なりますが、 どこか共通するものを感じますね。

山本:
結びもテンセグリティも "構造" ですし、 きちんとしたルールに従ってつくらないとかたちが崩れてしまうという点では花紋折りも同じです。 ゼロから新しいものを生み出すというよりも既にある構造や概念を編集することに興味があって、 それが自分のものづくりの特徴だと思っています。 この世には、 まだ見たことのない "美しさ" が存在していて、 そしてその背景には必ず何らかの秩序や構造があります。 そういうものを見つけた時に 「綺麗だな」 と感じることが、 いつも自分のものづくりの出発点になっているんですよね。

──これまで様々な試みにチャレンジされてきましたが、 山本さんが今一番関心があるテーマは何ですか?

山本:
原点に戻るようですが、 折り紙ですね。 造形として純粋に美しいと感じますし、 グラフィカルな部分にも惹かれます。 20代の頃から花紋折りを折ってきましたが、 これをどう現代の暮らしの中に溶け込むかたちにできるか……今も答えを探しているところです。





Information
KOJI YAMAMOTO 「PROJECT/OBJECT」


会期:2026 年 3 月 14 日 (土)〜 29日 (日)
営業時間:水曜〜日曜 12:00〜17:00
休廊:月・火曜
会場:GALLERY CLASKA (東京都港区南青山2-24-15 青山タワービル9F)
●東京メトロ銀座線「外苑前」駅 1b 出口より徒歩1分

※展示に関する最新情報は、「GALLERY CLASKA」のインスタグラムにて発信いたします。