古賀充展「PERSPECTIVE」

Interview / 古賀充 企画展 「PERSPECTIVE」

作品に反射する自分自身を眺める

日常生活におけるささやかな "発見" が起点となり生まれる、 作品の数々。
具象と抽象、 自然と人工。 それぞれの世界を軽やかに行き交う古賀さんの視点を通じて、 私たちはこの世界の美しさや面白さを再発見してきました。
CLASKA では11度目となる企画展のタイトルは 「PERSPECTIVE」。
積み重ねてきた自分自身の眼差しを 「今」 の自分が俯瞰したら何か見えるのか?
古賀さんのアトリエを訪ね、 今回の展示についてお話を伺いました。

写真:柳川暁子(CLASKA) 文・編集:落合真林子(CLASKA)




Profile
古賀 充 Mitsuru Koga


1980年生まれ。 造形作家。 日常に潜む美しさや面白さを様々な手仕事によって作品にし、 国内外の展示会にて発表。 作品集や絵本も制作。 主な作品集に 『SEA STONE VASES』 『LEAF CUTOUTS』 『Driftwood Dinosaurs』 『Atelier』、 絵本に 『ゴトガタ トラック』、 『いしころ とことこ』 『ピーン』 (福音館書店)がある。

HPhttps://mitsuru-koga.com
Interview:「つくる人 Vol.1 古賀 充 前・後編


長く新鮮さを感じるもの

古賀充展「PERSPECTIVE」

──前回の企画展 「10」 から約2年ぶりとなる今回の企画展のタイトルは 「PERSPECTIVE」。 日本語にすると主に 「視点」 という意味になりますが、 まずはこのタイトルに行きついた背景についてお聞かせください。

古賀 充さん (以下、 敬称略):
展示のタイトルやテーマに関しては、 CLASKA のディレクター・大熊さんと会話をしながら詰めていくのが恒例です。 今回の企画展については当初 "観察すること" というキーワードを主軸に考えていたのですが、 「それだったらいつも通りだね」 という話になって。 その後数ヶ月間手を動かす中で気が付いたのは、 自分の視点を変えてみると新たな選択肢が生まれてくる、 ということでした。 制作のためのアイディアや工程って、 ある意味 "無限" なんですよね。 ひとつの作品をつくるにしても工程は何パターンも考えられるわけで、 そんなグラデーションを色々と試しているうちに 「今の自分の視点」 というテーマが自然と浮かび上がってきました。

──常に新作を更新していくスタイルのアーティストもいますが、 古賀さんは新作を生み出すことと同時進行で過去に発表してきた作品も変わらずつくり続けていますね。 「古い・新しい」 という価値観ではなく全てが同列で、 "時間" というものを感じさせない印象があります。

古賀:
そうであったらいいなと思っていますし、 出来るだけ長く残るもの、 新鮮さを感じてもらえるものがいいという思いがあるので、 極端な話 「新しくなくていい」 と思っています。 とはいえ、 時に 「別にこればかりをつくりたくて生きてるわけじゃないんだよなぁ」 という気持ちが湧いてきたりもするので、 そうなったら違うことを始めてみたり。 新しいことに向き合いつつ、 「あの時にやった流れで出来ることが他にもあるな」 と思ったら元の場所に戻ってくる。 その繰り返しかもしれません。

古賀充展「PERSPECTIVE」
古賀充展「PERSPECTIVE」

自分の視点を俯瞰する

──今回の企画展には、 これまで発表してきた作品をご自身の "今" の視点で改めて見つめ直すことで出来上がった作品が並びます。 古賀さんの作品は日常生活における観察と発見、 つまり視点そのものをかたちにすることで生まれてきたということを踏まえて考えると、 今回のタイトルはダブルミーニング的なところがある気がしています。

古賀:
そうですね。 作品を眺めているようで結局は作品自体に反射している自分自身を見ている、 という。 そして現在進行形で 「見ている」 ものであり、 過去に 「見ていた」 ものでもあり……。


古賀充展「PERSPECTIVE」

──古賀さんの作品には、 それぞれ練りに練って完成された "制作工程" がありますが、 今回の展示に向けた作業において何か新たな発見はありましたか? 同じ工程を繰り返す中で 「もう、 飽きちゃったな」 と思うこともあったりしたのかな……? と想像してみたり。

古賀:
正直ありますし、 実は常に飽きちゃってる節もあります (笑)。 飽きている状態から、 また夢中になれる流れに入っていければいいな、 という思いで色々なことを試している感じでしょうか。 例えば、 毎日同じ内容の朝ごはんを食べていると飽きるじゃないですか。 でも、 毎日少しずつちょっとだけ違うことから新鮮さを得たりして……。

──卵の焼き方や野菜の切り方をいつもとは少しだけ変えてみる、 みたいな。

古賀:
それに近い感じです。 圧倒的に新鮮な何かというよりは、 "日常" の中に新鮮さを探すような作業でした。


古賀充展「PERSPECTIVE」

──「美しいバランスの工程が完成するまで」 が、 作品づくりにおける最大の山場だと伺っています。

古賀:
完璧な工程を生み出す行為こそが自分にとっての "創造" なので、 完成した作品そのものよりも 「それをどんな工程でつくったのか」 ということが重要だったりします。 ご質問いただいた "今回、 新たな発見はあったか? " ということに関しても、 やはり工程に関係することが多いですね。 「この加工法は今まで上手くいかなかったけど、 方法を少し変えるとこんな風にすっきりつくれるんだ。 面白い!」 みたいな。 もちろん、 見た目そのものを新鮮に感じていただける作品も完成しているので、 楽しみにお待ちいただけたら。

──先ほど、 古賀さんの作品は時間を感じさせないという話をしましたが、 色々な意味で表に出てこないものが多いから、 そう感じるのかもしれませんね。 感情を感じさせないというか。

古賀:
僕自身は感情的な人間なんですけどね (笑)。 自分が手を動かしてつくってはいるけれど、 あくまで 「工程」 が生み出しているかたちになるからでしょうか。 作品をつくっているのに、 何も表現していないという状態が理想なんです。 そういう思いはずっと変わらないですね。


古賀充展「PERSPECTIVE」

生活と創作

──最初に CLASKA で展示をしていただいてから、 約14年の月日が経ちました。 今回、 制作工程への新たなアプローチとは別に、 つくり手である自分自身についての新たな発見はあったりしましたか?

古賀:
いきなり個人的な話になりますけど、 親が転勤族だった関係で何度も転校を経験しているんです。 子ども時代に変化する環境に身を置いたことで、 "変化しないもの" を求めるようになった側面がある気がしていて。 その一方で、 周りの影響を結構受けやすい方でもあるんです。 だからこそ、 なるべく変わらない環境と方法で作品をつくろうとするのかもしれないと、 改めて実感しました。


古賀充展「PERSPECTIVE」

──同じ作品に長く向き合い続ける姿勢も、 潜在的に理想としていた姿なのかもしれませんね。 そこに喜びがある、 みたいな。

古賀:
喜びということでいうと、 長く向き合うことよりも 「上手くつくれた」 ことに対しての方があるかもしれないです。 "いい集中" でつくれると、 さらに嬉しい。 アトリエが自宅の一角にあるので当然家族との暮らしも同じ場所にあるんですけど……子どもって、 すごく集中を奪ってくるから (笑)。

──アーティスト活動と家庭生活における役割の両立は、 簡単なことではないですよね。 それこそ、 頭の切り替えがとても難しそうです。

古賀:
アーティストって "創作のためには家族の犠牲も厭わないみたい" なイメージもあるじゃないですか。 そのほうが断然やりやすいとは思うんですけど……。 自分の場合は、 両方大切にするというチャレンジをしたいと思っているんです。 とはいえ、 やはり簡単なことではないからこそ、 いい集中で作品がつくれるとすごく嬉しくて。 家族との時間を大事にしたいと思うのも、 作品づくりに集中したいのも、 どちらも自分。 両方あるからこそバランスがとれていて、 戻ってくる場所として創作活動があるような感覚ですよね。 「つくる」 こと自体が、 戻ってくる作業というか。

古賀充展「PERSPECTIVE」
古賀充展「PERSPECTIVE」

──以前お話を伺った際、 作品づくりをしていない時も常に手を動かしているとおっしゃってましたよね。 家の廊下を剥がして張り替えたり、 壁を塗ったり、 起きている間は、 ずっと何かしらつくっていると (笑)。

古賀:
そうそう。 「つくっている」 状態がキープされていることが、 自分のアイデンティティみたいなところがあるので (笑)。

──生活と創作が地続きになっている環境と意識でものづくりをされているからこそ、 見えるもの、 生まれてきたものがあるのかもしれませんね。

古賀:
最近は、 自分で思っているよりも沢山のことが複雑に重なりあって 「今」 があるのかもしれないな、 という思いがより強くなりました。 アトリエとして使っているこの部屋は元々祖母が洋裁教室をやっていた場所なのですが、 机などは当時のままなんです。 祖母が仕事をしていた痕跡がそのまま残っていたりするのですが、 そういう "時間" が積み重なった環境で作品をつくれていることが、 なんかいいなぁと。

古賀充展「PERSPECTIVE」

──最後に、 改めて今回の展示の見どころについて教えてください。

古賀:
「古い」 とか 「新しい」 ということではなく、 作品を見たその時に感じるものが常にある、 ということが大切な気がしています。 どれもこれまでの流れを汲んでつくった作品ですが、 今現在の自分の視点で新しくつくったものなので 「今」 の作品として楽しんでいただけたらいいなと思います。

──「新作ではないようで、 新作である」 という、 今回の展示ならではの感覚を味わっていただけたら嬉しいですね。

古賀:
そうですね。 お馴染みのシリーズではあるはずだけど……っていう。 これまで何度も展示に足を運んでくださっている方はもちろん、 はじめて見てくださる方にとっても楽しんでいただける内容になっていますので、 是非足をお運びください。


古賀充展「PERSPECTIVE」





Information
古賀充 展 「PERSPECTIVE」


会期:2025 年 8 月 23 日 (土)〜 9 月 7 日 (日)
営業時間:水曜〜日曜 12:00〜17:00
休廊:月・火曜 会場:GALLERY CLASKA (東京都港区南青山2-24-15 青山タワービル9F)
●東京メトロ銀座線「外苑前」駅 1b 出口より徒歩1分