そぼろさんの縫いぐるみ

縫いぐるみ作家・そぼろさん Interview

そぼろ展 「いつも。」 に寄せて

CLASKA では約10年ぶりとなる、 そぼろさんの企画展を開催します。
思わずクスっとしてしまう愛らしい表情や佇まいの中に、 どこか哀愁を感じさせる縫いぐるみ。
持つ人の心に優しく寄り添う独特の生命感を備えた作品は、 どのようにして生まれるのか?
そぼろさんのアトリエを訪ね、 色々とお話を伺いました。

写真:柳川暁子(CLASKA) 文・編集:落合真林子(CLASKA)




Profile
そぼろ


東京藝術大学絵画科油画専攻、 同大学院修了。 縫いぐるみ作りや絵を描くことで生計を立てています。 "かわいそう" とも言える "かわいい" を作ってます。

Instagram@sobokoara
Interview:「つくる人 Vol.6 SOBORO/ぬいぐるみは世界を救う


──そぼろさんの企画展を CLASKA で開催させていただくのは、 約10年ぶりとなります。 一番最初の展示は、 かつて 「渋谷パルコ パート 1」 内にあった 「CLASKA Gallery & Shop "DO" 渋谷パルコ店」 (施設のリニューアルに伴う休業により2016年に閉店) で2013年に開催した 「そぼろプラネット展」 でした。

そぼろさん (以下、 敬称略):
懐かしいですね。 CLASKA さんとのご縁は、 グラフィックデザイナーの山口信博さんにディレクターの大熊さんを紹介していただいたことがきっかけでした。 大熊さんとはじめてお会いした際に作品を見ていただいて、 その後 「店舗で展示をしませんか」 とお声かけいただいたんです。

そぼろの縫いぐるみ

──それ以降もいくつかの店舗で展示をしていただいて、 2020年にはコラボレーション商品として 「そぼろのぬいぐるみバッグチャーム」 をつくらせていただきました。 ちょうどその頃に縫いぐるみ作家としての歩みについてインタビューをさせていただきましたが、 改めて今現在のそぼろさんの活動内容について教えてください。

そぼろ:
以前と変わらず、 基本的には SNS 上で告知・開催する 「お迎え会」 が活動の柱になっているのですが、 それプラス最低でも年に一度は縫いぐるみを実際に手に取って見ていただける場として個展を開催するようにしています。 あとは、 不定期でワークショップを行ったり、 企業コラボレーション商品をつくらせていただいたり……。

──縫いぐるみだけではなく、 絵や ZINE など制作されるものが多岐にわたるようになりましたね。 活動をスタートされた15年前と比べると、 活動の幅が大きく広がったのではないでしょうか。

そぼろ:
そうですね。 縫いぐるみが媒介となって、 社会との関わりが徐々に増えていきました。 自分としては 「縫いぐるみ」 「絵」 「言葉」 の間に垣根はなくて、 その時々で最適だと思う表現手段を選んでいる感覚です。 もともと縫いぐるみだけでやっていくつもりはなかったので、 自然な流れと言えるかもしれません。

そぼろの縫いぐるみ

絵づくりをするように縫いぐるみをつくる

──そぼろさんの縫いぐるみを眺めていると、 特定の誰かというわけではないのですが 「こういう感じの男の子っているよね !」 と感じさせるような実在感や、 生命感を強く感じます。

そぼろ:
そう言ってくださる方、 多いです。 生命感を意識的に出そうとしているわけではなく、 結果的にそうなっている、 という感じでしょうか。 ……話が少し飛ぶようですが、 私はもともと美術大学で油絵を学んだ人間で、 予備校に通っていた時代から 「絵づくり」 というものにずっと向き合ってきたんですね。 その経験が、 自分の縫いぐるみづくりに影響しているような気はしています。

──「絵づくり」 とは? 

そぼろ:
たとえば美大の入学試験だと、 トイレットペーパーを渡されて 「これを絵にしてください」 というような問題が出たりするんですよ。 単にトイレットペーパーを上手に描けば OK ということではなく、 絵を描く紙の四隅までをひとつの絵として仕上げる、 ということなんですけど……。 絵の中にはっきりと "存在" させていく、 と言うとイメージが湧きますか?

──はい、 なんとなく。

そぼろ:
この考え方を縫いぐるみづくりにも落とし込めないかな? という思いがあるんです。 つまり 「自分がつくる縫いぐるみを、 この世に存在させていく」 という気持ちで縫いぐるみをつくっているので、 それが "生命感" みたいなものに繋がっているんじゃないかと思っています。 すみません、 うまく言葉にできないのですが……。


そぼろさんの縫いぐるみ


そぼろさんの縫いぐるみ


──「絵づくり」 ということでいうと、 絵画の世界は揺らぎや不規則さゆえの魅力というものが一般にも広く認知されている印象がありますが、 手芸の世界は綺麗な縫い目とか、 均一さとか、 そういうものが求められる傾向にある気がします。

そぼろ:
そうなんですよね。 自分はその対極にあるものをつくっている、 という意識があります。

──ちなみに、 今回の展示会場にはどんな縫いぐるみが並ぶ予定ですか?

そぼろ:
定番のコアラや猫など動物が多くなる予定で、 最低でも20体はご用意できたらと思っています。 動物の他には 「イエティ」 のような架空の生き物シリーズ、 それから過去につくった子や普段自分の家にいる子たちも非売品として展示する予定にしています。

──定期的に開催しているウェブでの 「お迎え会」 にはその時々で様々なモチーフの縫いぐるみが登場しますが、 やはり動物が人気ですか?

そぼろ:
そうですね。 とても興味深いんですけど "流れ" みたいなものがあって、 同じ動物でも、 小さいもの・大きいもの、 洋服を着ている・着ていない等々、 その時々で人気を集める子の傾向が異なるんです。 私自身が気に入っている子が意外と応募が少なかったり、 「この子が一番人気なんだ!」 という意外な驚きがあったり。


そぼろのぬいぐるみ

──今回は縫いぐるみと合わせて油絵作品も展示販売されますが、 作品として油絵を販売するようになったのはいつ頃からですか?

そぼろ:
数年前から、 時々水彩画やスケッチを縫いぐるみとセットにして販売していたのですが、 そうするうちに、 やっぱり油絵が描きたくなってしまって。 個展で作品として展示をするようになったのは、 ここ2年くらいでしょうか。

──そぼろさんは藝大で油絵を学んでいましたし、 縫いぐるみをつくってきた時間よりも圧倒的に絵を描いてきた時間のほうが長いですものね。 ちなみに……油絵を描いている時間というのは、 やはり 「心落ち着く時間」 なのでしょうか。

そぼろ:
むしろその逆で、 すごく昂ってます。 夜中にふと思いついて描き始める時もあるし、 朝から晩までずっと描いている時もあるし。 ダイニングルームで描くことが多いのですが、 落ち着きのない興奮した動物みたいなテンションで描いています (笑)。

そぼろのぬいぐるみ

──制作時の熱量は、 油絵と縫いぐるみでは異なりますか?

そぼろ:
どうでしょう……。 縫いぐるみづくりはずっと仕事としてやってきているので、 冷静になったり客観的になったりする瞬間が多い気がしますね。 絵を描くことも縫いぐるみを縫うことも、 どこかで自分の昂る気持ちを落ち着かせようとしながらやっているところがあります。 手を動かしていると、 段々と自分の温度が一定に保たれていう感覚があるんですよ。

──今回の展示のために寄せていただいたテキストの中に、 「いつもあなたに寄り添うことによってケアとなり、 いつも創ることによってわたし自身のケアともなる。」 という一文がありましたね。

そぼろ:
はい。 特に縫いぐるみづくりに関してはその感覚が強いですね。 あまり使いたくない言葉ですけど、 手を動かしながら自分自分が "癒されて" います。

そぼろの縫いぐるみ



共に時を重ねていく

──世の中に存在する 「もの」 は、 良い感じに経年変化していくものと、 新品の状態がピークでどんどん劣化していくもの、 大きく二つに分けられる気がします。 縫いぐるみの世界にも同様のことが言えるのではないかと思うのですが、 "ものとして時を重ねる" ということについては、 どんな考えをお持ちですか? 長く活動されていると、 かつて自分がつくった縫いぐるみと再会する機会もあるかと思いますが……。

そぼろ:
再会、 ありますね。 個展を開催すると、 かつてお迎えしてくださった縫いぐるみを連れてきてくださる方がいるのですが、 面白いことに 「その方の家の子なんだな」 と思わせる表情になっているんです。 もちろん、 毛さばきが変わっている等見た目の変化もあるんですけど 「私がつくったうちの子」 ではなく、 時が経つにつれてその方の家の子になっていったんだな……ということが実感できて、 すごく嬉しいです。

──そうなるために、 つくり手として工夫していることや大切にしていることはありますか?

そぼろ:
なるべく長い期間一緒にいていただくために 「丈夫である」 ということはやはり重要になってくるので、 場所によって手縫い、 ミシン、 或いはミシンを二度かける、 といったように縫い方を分けています。 それでもやはり、 布と糸と綿で出来たものですから破れやほつれが発生してしまうこともあって、 お迎え主さんからご連絡をいただいて我が家に一旦入院してもらう、 みたいなこともやっています。

そぼろのぬいぐるみ

──そぼろさんが活動をスタートしてから現在までの約15年で、 世の中は大きく変わりました。 そぼろさんご自身にも様々な変化があったのではと想像しますが、 自身の変化が作品にも反映されていると感じることはありますか?

そぼろ:
活動をはじめた当初は自分が 「かわいい」 と思ったものをつくることに一生懸命でしたが、 生きていくうちに自分自身も変化しますし、 世界に目を向けるとパレスチナの問題をはじめ思わず目を背けたくなるような現実が山ほどあって。 世の中の様々な "現実" を知ってしまった以上は手放しでニコニコしているものはつくれないし、 自分が生きているこの社会から目を逸らさないでいたい、 と強く思っています。

──そぼろさんのつくる縫いぐるみは、 基本的に穏やかな表情をしていますけど、 どこか哀愁を帯びている印象もあります。 それは、 そぼろさんの中に今お話しされたような思いがあるからこそ、 なのかもしれないですね。

そぼろ:
そうだと思います。 ただ、 縫いぐるみをお迎えしてくださった方に 「こんな気持ちでつくったから、 こういう風に接してほしい」 とか、 何かを求めるつもりはありません。 それぞれの方の距離感で自由に楽しんでくだされば、 それが正解だなと思っています。

そぼろの縫いぐるみ

オフラインの展示をする意味

──今回の企画展は、 訪れる人が実際にそぼろさんの縫いぐるみと直接対峙できる貴重な機会となります。 活動の柱にされているオンラインの 「お迎え会」 と、 オフラインの個展を比較した時、 一番の違いは何だと感じますか?

そぼろ:
やはり、 お客さまの熱量を直に感じられるところだと思います。 なるべく 「自分で責任をもって送り出す」 ということをしたいので、 個展をする時は基本的に必ず会場に立たせていただいているのですが、 私の方からも 「こういう風につくっているんです」 ということをしっかりお話させていただきますし、 お客さまと直のやり取りすることは自分にとって大きな活力になるんです。 普段はオンラインベースで活動をしていますし、 今の時代ほとんどオンラインで事足りたりもするのですが、 直接お会いしてその方の熱量を感じることは私にとって凄く重要なんですね。 昭和の人間なので (笑)。

──お客さまにとっても、 画面上で選ぶのと実際に手に取って選ぶのとでは随分と感覚が違いそうですよね。

そぼろ:
そうですね。 縫いぐるみを 360 度自分の目で見て、 写真では伝わらない大きさや重みを実際に感じることができるのもオフラインの醍醐味だと思います。 是非会場に足を運んでいただき 「この子だ!」 という出会いを楽しんでいただけたらと思います。

そぼろの縫いぐるみ





Information
そぼろ展 『いつも。』


会期:2025年6月14日(土)〜29日(日)
営業時間:水曜〜日曜 12:00〜17:00/月・火曜、6月22日(日)※ビルメンテナンスのため休廊
会場:GALLERY CLASKA (東京都港区南青山2-24-15 青山タワービル9F)
●東京メトロ銀座線「外苑前」駅 1b 出口より徒歩1分

*そぼろさん在店予定日:6月14日(土)、6月15日(日)
*状況に応じて整理券を配布いたします。
*縫いぐるみ、油絵作品に加え、本展の開催にあわせてそぼろさんと一緒につくったTシャツとトートバッグも販売いたします。