吉川和人展

─ Interview

「吉川和人展 a forest in the city II」

 

「GALLERY CLASKA」 では2017年以来7年ぶりとなる、 木作家・吉川和人さんの個展を開催します。
会社員を経て2014年に作家としてデビュー。
10年間にわたるものづくりの歩みを体感いただける、 豊富なラインナップが揃います。
今回の展示について、 そして吉川さんのものづくりについてお話を伺いました。

写真:柳川暁子(CLASKA)/文・編集:落合真林子(CLASKA)



 

Profile
吉川和人 Kazuto Yoshikawa


木作家。 1976年生まれ。 大学卒業後、 カッシーナ・イクスシーに入社。 36歳の時に作家を志し、 2012年に退社。 岐阜県立森林文化アカデミーで木工技術を学ぶ。 卒業後、 木作家として東京と三重の二拠点に工房を構え、 制作活動を行っている。

Instagram@kazutoyoshikawa
 


──CLASKAでは7年ぶりとなる、 吉川さんの個展 「a forest in the city II」 がスタートします。 吉川さんとのご縁のはじまりは約11年前、 まだ吉川さんが作家としてデビューされる前でした。

吉川和人さん (以下、 敬称略):
そうでしたね。 当時、 東京で務めていた会社を辞めて岐阜の専門学校で木工を学んでいたのですが、 東京に戻ってくる度に自分がつくったものを持ってインテリアショップなどを訪れては営業活動をしていました。 CLASKAさんに関しては、 ディレクターの大熊さんとお会いして話をしなければはじまらないだろうと、 実は何度も本店に足を運んではタイミングを伺っていたんです。

──その後、 縁あって店舗で作品を取り扱いさせて頂いたり、 いくつかの店舗の什器もつくって頂きましたね。 そして2017年には 「CLASKA Gallery & Shop “DO” 本店」 で個展 「a forest in the city」 を開催して頂きました。

吉川:

実は僕の個展デビューはCLASKAさんなんですよ。 2017年の個展以前にも店舗でフェアを開催していただいたりして、 独立したての自分にとって大きな自信に繋がりました。

吉川和人展

2017年に 「CLASKA Gallery & Shop “DO” 本店 (現在は閉店)」 で開催した個展の様子。

 

──前回から7年、 今回の個展にはどのような作品が並ぶ予定ですか?

吉川:
定番でつくっているカトラリーやプレート、 それから木の表情を生かしたボウルや久しぶりにつくるコンポート皿、 テーブルやチェスト、 ミラーなどの家具類もご用意しています。 あとは……家具などをつくる時に出た端材を使った積み木のオブジェも。 これはちょっとかわいい感じのもので、 今回の展示ならではと言えるものかもしれません。

吉川和人展
吉川和人展

沢山の材料が所狭しと並ぶ工房。

 

──7年前の個展にも、 かわいいオブジェがたくさん並びましたね。

吉川:
はい。 意外に思われるかもしれませんが、 実は僕、 ポップでかわいいものが好きなんですよ。 でも……こんなことを言うのもおこがましいのですが、 作家としてのブランディング上、 あまり普段はそれを表に出さないようにしていて(笑)。

東京903会

2017年開催の個展に並んだオブジェ。

 

──確かに、 吉川さんの作品に対して静謐で大人っぽい印象を持っている方は多いですよね。

吉川:
そうですね。 でもCLASKAさんで行う展示であれば、 そういう一面を出してもいいんじゃないかと思いました。 ディレクターの大熊さんも "かわいいもの好き" ですし (笑)。

──嬉しいです。 今回の展示は、 作家としての吉川さんの新たな一面を知っていただく機会になりそうですね。

吉川:
積み木のオブジェは単に 「かわいいものが好き」 という気持ちから生まれたものではなくて、 自分と木の関わりの原体験を反映したものでもあると思っています。 僕だけではなく多くの人が、 小さな頃に積み木で遊んだ経験があると思うんですね。 実際に見て触れて頂いて、 みなさんそれぞれの木との遊びの記憶に思いを巡らせていただけたら嬉しいです。
 

 
吉川和人展
 

──木との関わりの原体験ということでいうと、 吉川さんがはじめて木のスプーンをつくったのは小学3年生の時だったそうですね。

吉川:
はい。 幼い頃から 「自分で使うものは自分でつくる」 ということに情熱を燃やしていて、 家の裏山でツリーハウスをつくったり木を削って弓をつくったりして遊んでいました。 スプーンは母へのプレゼントだったのですが、 自分にとってはごく自然な行為だったのかなと思います。

──吉川さんは一般的には扱いにくいとされるであろう木目が不規則だったり節や歪みがある木材にも価値をおいて制作をされていますが、 そういった木との向き合い方は、 やはり幼少期の経験が影響しているのでしょうか?

吉川:
森は身近にある楽しい遊び場であると同時に、 動植物の生死を体感する、 いわば怖れを感じる場所でもありました。 節や歪みは木が森で生きてきた証であり、 決して均一ではなく一つひとつに個性がある点が 「木」 の魅力なんじゃないかと。 こういう考えは幼少期の経験から来ているんじゃないかと思います。

吉川和人展

吉川さんの部屋の横に生えていたクルミの木でつくったという手づくりのスプーン。

 

──いまや代表作といっても過言ではないスプーンですが、 やはり長くつくり続けている背景には 「つくっていて面白い」 という気持ちがあるのでしょうか?

吉川:
そうだと思います。 スプーン以外にもプレートやボウルなど食周りのものをつくっていますが、 スプーンは口に直接つけて使うものですから特に 「食べること」 に直結していますよね。 そういうところも面白いなと思います。

──木のスプーンって、 一度使いはじめるとクセになるという人が多いですよね。

吉川:
人間の本能じゃないでしょうか。 金属と比べて木という素材は体に触れることがごく自然というか、 心地よさを感じますよね。

──ここ数年で、 吉川さんのスプーンを使うレストランの数が国内外で増えたと伺いました。

吉川:
ひと昔前までは食洗器にかけられる業務用のうつわやカトラリーを使う店が主流だったと思いますが、 今は作家がつくったものを使うことが決して珍しいことでは無くなりました。 もちろんビジュアル的な演出もあると思うのですが、 手で触れたり口に含んだ時に心地いいと思えること、 そういった人間の感覚の原点に返る……みたいなことが尊重されてきている結果なのかな? と感じています。
 

吉川和人展

制作途中のスプーン。 現在定番としてつくっているスプーンは11種にのぼるという。

 

──作家活動の他にも、 三重の工房 「森へ行く日」 を拠点とした森の資源を有効活用するための取り組みもされています。 活動の幅が広がる中で、 この先取り組んでみたいことや、 つくってみたいと思っているものはありますか?

吉川:
つい先日まで三重の工房にいたのですが、 地元の林業に長年従事していた方に話を伺う機会がありました。 その方が保管している木はグニャグニャに曲がっていたり、 コブのある木だったり結構変わったものが多かったのですが、 「この木はね、 こんな苦労してきたんだよ」 と愛情たっぷりに色々話をしてくださって。 僕はその方の話を面白いなぁと思って聞いていたのですが、 ふと思ったのは、 モダンな、 いわゆるデザイナーズの家具を扱う会社で働いていた頃の20〜30代の時の自分はもっと違う文脈でデザインを考えていて、 こういう話は少し苦手だったかもなぁと。 もちろん、 木への親しみは幼い頃から変わらずありますけど、 木本来の姿を美しいと思う気持ちが、 年を重ねてきたことでより高まってきている感覚があります。

──なるほど。

吉川:
これから挑戦してみたいものとしては……。 その地方の特産品が販売されている 「道の駅」 に行くと、 時々地元の方がつくった手作りの小物や家具が売っているじゃないですか。 僕ももし地方に住んでいて別の本業があったとしたら、 またはリタイアしていたら、 間違いなくそういう人になっていると思うんですが、 アマチュアだからこその初期衝動の力強さとか、 原始から人間が木に対して持っていた畏れや憧憬みたいなものをふと感じて、 襟をただす気持ちになる時があります。 今考えているのは、 そんな衝動や憧憬を、 自分の今までの経験を通して、 現代のインテリアとして昇華したものがつくれないかなぁと思っています。

──楽しみです! 今回の個展は、 吉川さんの原点ともいえるスプーンから大型の家具まで、 この10年で吉川さんが木と向き合ってきた軌跡に触れることができる展示になりそうですね。 一人でも多くの方に、 実際に見て触れて頂けると嬉しいなと思います。

 
吉川和人展
 
 

Information
吉川和人展 「a forest in the city II」


会期:2024年2月24日(土)〜3月10日(日)
営業時間:水曜〜日曜 12:00〜17:00 定休日:月・火曜
作家在廊日:3月2日(土)、3日(日)
会場:GALLERY CLASKA (住所:東京都港区南青山2-24-15 青山タワービル9階)
●東京メトロ銀座線 「外苑前」 駅 b1出口より徒歩1分

家具は受注生産となります。 予めご了承ください。

【ご来場にあたってのお願い】
・当ギャラリーはオフィスビルの中にございます。 建物内にはお待ちいただけるスペースが十分にございませんので、 出来るだけオープン時間にあわせてお越しください。
・共用部などでお待ちいただくとほかの入居者の方のご迷惑となりますのでご遠慮ください。